最新記事

北朝鮮

北朝鮮とベトナムが急接近 次の米朝会談はリゾート地ダナンに?

2019年1月18日(金)12時15分
鈴木琢磨(毎日新聞社部長委員)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

「ドイモイ」流で改革・開放?

北朝鮮とベトナムの急接近─。その謎を解くカギは2018年4月27日に行われた板門店での南北首脳会談にある。メインの会談を終えた金正恩と韓国の文在寅大統領が二人きりで「徒歩橋」を散策し、ベンチで対談した。あの印象的なシーンを覚えておられるだろう。文在寅は制裁解除後を見据え、発電所を含む南北共同の「新経済構想」の資料が入ったUSBメモリーを手渡した。対する金正恩は自国の経済再建についてこう語った。「開放するとしたらベトナムのようにやりたい」。詳細は不明ながら、金正恩はベトナム式の改革・開放政策である「ドイモイ(刷新)」について、かなり研究していたフシがあったという。

大胆に市場メカニズムを導入し、対外開放しながら、ベトナム共産党の一党支配体制は堅持する「ドイモイ」は1986年に始まった。とにかく戦火で疲弊した経済再建を優先し、敵視の続いた米国との国交正常化はかなり遅れた。国交正常化が実現したのはほぼ10年後、1995年7月11日、75年にベトナム戦争が終わってからちょうど20年目であった。中国は米国との国交が確定してから改革・開放に踏み切ったが、核問題もあり、すんなり米国との国交正常化が実現するとは踏んでいない金正恩にとって、ベトナムをモデルにするのはうなずける選択だ。

北朝鮮がベトナムに熱い視線を送ったのは初めてではない。泥沼のベトナム戦争がサイゴン陥落で終焉を迎えたのは1975年4月30日のことだった。ついにアジアの小さな社会主義国が憎き米帝に勝利し、分断国家が統一される─平壌の執務室で、金日成は戦況の行方を固唾をのんで見守っていたに違いない。

そして、居ても立ってもいられなくなったのか、金日成は同年4月17日から27日まで中国を公式訪問する。中朝関係の専門家である中国・華東師範大学の沈志華教授が関連資料を入手し、この訪中をめぐっての驚くべき研究成果を発表している。ずばり、金日成の武力統一へのただならぬ意欲である。

4月18日、金日成は北京の中南海で毛沢東と会う。会談前日、クメール・ルージュ反乱軍指導者のポル・ポトが親米政権を倒していた。会談記録によれば、金日成は「彼ら(ベトナムとカンボジア)の勝利はわれわれの勝利と同じだ」と称賛したとされる。朝鮮半島でも同じく武力統一を図りたい旨を毛沢東に伝えようとしたのだ。それとなく話題を武力行使の可否へ振ろうとしたが、毛沢東は「政治の話はもうしない」と取り合わず、30分の会談は終わったという。金日成は「第2次朝鮮戦争」が頭をかすめていたのだろうが、毛沢東はすでに次なる世界を見ていたのだった。

なぜならこのとき、米中関係はとっくに和解へと動きだしていたからだ。1971年の米国務長官キッシンジャーの中国訪問、そして1972年の米大統領ニクソンの訪中で、関係改善は決定的になっていた。正式な国交正常化にこぎ着けるのは1979年だが、1975年当時も「第2次朝鮮戦争」など毛沢東の頭の片隅にすらなかったはずである。一方の金日成は1950年に自ら決断した朝鮮戦争で勝利できなかった。ベトナムの南北統一をうらやましくながめながら、中国は当てにできないと思っただろう。そして改めて自主武力の増強の重要性を悟り、それが核・ミサイル開発へと突き進む一つのきっかけになったのだろう。

MAGAZINE

特集:日本と韓国 悪いのはどちらか

2019-9・24号(9/18発売)

終わりなき争いを続ける日本と韓国── 泥沼の関係に陥った本当の原因と「出口」を考える

人気ランキング

  • 1

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 2

    韓国航空会社の受難......ウォン安、原油高騰に「ボイコットジャパン」が追い打ち

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    香港対応に見る習近平政権のだらしなさ

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 7

    文在寅が「タマネギ男」の検察改革に固執する理由

  • 8

    文在寅「超側近」チョ・グクの疑惑がここまで韓国人…

  • 9

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配…

  • 10

    韓国銀行、景気下振れリスク認めつつ追加利下げは示…

  • 1

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 2

    韓国航空会社の受難......ウォン安、原油高騰に「ボイコットジャパン」が追い打ち

  • 3

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 4

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャ…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 7

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 8

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」…

  • 9

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 10

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 1

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 7

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 8

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月