最新記事

トランプ政権

トランプの「オバマつぶし」、エボラ対策費を削減

2018年5月21日(月)11時30分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会・元シニアフェロー)

コンゴの隔離医療施設から出て防護服を脱ぐ医療従事者 REUTERS

<コンゴでエボラ出血熱の再発生が報告されるなか、オバマの作った医療プログラムを標的にする愚かさ>

トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を発表していた頃、ホワイトハウスは別の重要な提案を、あまり注目されない形で議会に提出していた。それは児童医療保険プログラムとメディケア(高齢者医療保険制度)、そしてエボラ出血熱対策の予算を削減するというものだ。

2つの政策は無関係に見えるかもしれないが、根本に大きな共通点がある。どちらもオバマ前大統領が手塩にかけた政策で、それをつぶせば安全保障上の大きなリスクを背負い込むことになる点だ。

トランプの提案は国外における緊急時対応を主体とした医療プログラム38件を廃止するもので、予算の削減総額は154億ドルに上る。だが4兆1000億ドルの連邦予算の中ではほんのわずかで、政府支出の0.4%にも満たない。4400億ドルの赤字額からしても、微々たるものだ。トランプの行動は財政に対する責任や赤字削減、均衡予算の追求が動機だとは言い難い。

トランプの動機は「オバマつぶし」にある。それは、シエラレオネやリベリア、ギニアでエボラが流行した15年に設けられた緊急対応資金の2億5200万ドルを削減しようとしていることを見ても明らかだ。

オバマは14年、西アフリカでのエボラ流行がアメリカの安全保障の危機になり得ると考え、議会に約10億ドルの緊急出資を申請した。エボラ禍と闘う3カ国を支援し、米軍から人員を送り、疾病対策センター(CDC)が対策に全力で取り組む態勢を維持するためだ。

今年の時点で残っている資金2億5200万ドルは、アフリカ全土でエボラの発生を予測し、対応する地方自治体の能力を構築するために使われることになっていた。

吹き荒れる資金削減の嵐

エボラ対策資金を廃止する決定が発表されたのは、WHO(世界保健機関)がコンゴ(旧ザイール)でのエボラ発生宣言を行ったのとほぼ同時だった。

コンゴがエボラの流行に直面するのはこれで9回目。宣言時点で21件の症例が報告され、17人が死亡。死亡率は8割を超える。アメリカに脅威となり得る疫病の新たな大発生の兆候が表れているときに、致死性ウイルスと闘う資金2億5200万ドルを削減する理由は、オバマが作ったプログラムだからということ以外にない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中