最新記事

起業家

EV、宇宙開発から火炎放射機まで、イーロン・マスクのジョークを現実にする力

2018年1月31日(水)20時00分
アンソニー・カスバートソン

マスクのもう1つのプロジェクト、高速地上輸送ハイパーループのコンテストで(2017年8月) Mike Blake- REUTERS

<ロサンゼルスの渋滞にうんざりしたからトンネル採掘ベンチャーを作り、その資金調達のために火炎放射機を売る。EVのテスラやスペースXとかけ離れていても関係ない>

米ロサンゼルスの渋滞にうんざりした電気自動車テスラのイーロン・マスクCEOが、地下トンネルを整備するためのトンネル採掘ベンチャー「ボーリング(うんざり)・カンパニー(Boring Company)」を立ち上げる、と初めて発表した時、人々は冗談だと思った。だがそれから1年以内には、ロスの地下に開いた最初のトンネルの写真がネット上に表れた。

webt180131-tunnel.jpg
ロサンゼルスの地下にマスクが初めて本当に開けたトンネル(2017年10月27日) The Boring Company

昨年12月に、ボーリング・カンパニーの資金調達のために火災放射器を売るつもりだと発表した時も、頭のいい大富豪がまた冗談を言い出した、と多くの人が思った。

彼の冗談はいつものことだ。1月29日には、テスラから「うっかりドライバー新発売」と、車を忘れてきたらしい運転手の写真をツイートした。

だが、マスクが属するハイパーリアリティの世界では、冗談が現実になることもしばしば。火災放射器を販売すると発表してから1カ月余りが経った1月28日、マスクはツイッターで完成品を披露し、「この子たちをよろしく」とコメントした。

webt180131-musk02-1.jpg
マスクが本当に売り出した火炎放射機。価格は500ドル The Boring Company

実は火災放射器はボーリング・カンパニーの資金調達第2弾で、第1弾は昨年10月に発売した20ドルのロゴ入り野球帽「世界一ボーリング(うんざりする)帽子」だった。帽子はあっという間に完売し、2016年に設立したばかりのボーリング・カンパニーは100万ドルの資金を調達した。さらに火災放射器を2万個売れば、1000万ドルの資金を手にできる。

予約販売開始から48時間以内に1万個売れた、とマスクはツイートした。史上最速で売れた火災放射器になりそうだ。

マスクは「口だけ」とウォズニアック

だが、誰もがマスクのビジネスの才能を信じているわけではない。かつてマスクの最大の支援者だった米アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアックはつい一週間前、テスラの新型EVセダン「モデル3」の生産が遅れていることを例に挙げ、マスクのモノを売る能力が優れているのは口先だけかもしれない、と指摘した。

ボーリング・カンパニーという社名は、マスクが離婚と復縁を繰り返した英女優タルラ・ライリーが考案した。次々と企業を立ち上げては成功させる彼が手がけた最新のベンチャーだ。過去には米電子決済大手のペイパルを創業、売却した資金を元手にテスラや、人類を多惑星種にするという野望を掲げる宇宙開発ベンチャー「スペースX」など、事業の幅を広げてきた。

テスラもスペースXも、設立当初は間違いなく失敗するだろうと見られていた。電気自動車も宇宙開発事業も、うまくいった前例がなかったからだ。

ボーリング・カンパニーが、ロスの「気の変になる渋滞」を解消するという目標も、達成できるかどうかはまだわからない。だが失敗しても大丈夫。また奇抜な製品を売って大儲けすればいいのだから。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中