最新記事

自然再生

アルツハイマー治療薬を使って歯を自然再生、英研究者が成功

2017年1月12日(木)15時30分
高森郁哉

gehringj-iStock

 現在の虫歯治療では、ドリルで削った象牙質の部分にセメントなどの人工物を詰めている。そうした詰め物の代わりに、アルツハイマー治療薬を使い、象牙質を自然に再生させることに成功したと、英ロンドン大学キングス・カレッジの研究者らが発表し、英学術誌『ネイチャー』が論文を掲載した。

アルツハイマー治療薬の「副作用」に着目

 マウスを使った実験に成功したのは、同カレッジのポール・シャープ教授が率いる研究チーム。歯の中には象牙質に囲まれた歯髄(神経と血管)と呼ばれる軟組織があり、歯髄に含まれる幹細胞は象牙質を再生させる能力を持つ。ただし、同大学のリリース文によると、詰め物にセメントなどを使う場合、人工物が分解されることなく歯の中にとどまるため、自然な象牙質の再生を阻害するという。

 シャープ教授らは、現在臨床試験中のアルツハイマー治療薬「タイドグルーシブ(Tideglusib)」に注目。この薬には、アルツハイマー病の原因となるグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK -3)の活性化を抑制する作用があるが、歯に適用した場合、象牙質を修復する自然なプロセスを促進する作用も認められるという。

 研究チームは、マウスの歯を一部削り、生分解性があるコラーゲンでできたスポンジにタイドグルーシブを少量含ませてその部分に詰めた。スポンジは時間とともに分解が進み、それに置き換わるように象牙質が再生していることが確認された。

実用化は?

 ザ・ガーディアンがこの研究を取り上げた記事によると、研究チームは現在、マウスよりも約4倍大きな歯を持つラットでこの手法をテスト中。これが成功すれば、年内にも初の臨床試験を実施する計画だという。

 なお、この治療法が実用化されたとしても、やはり細菌に浸食された歯の部分を取り除く必要はあるため、ドリルで歯を削る工程は残る。シャープ教授はザ・ガーディアンの取材に対し、「残念ながら、ドリル(で歯を削ること)は今後も必要だろう。ドリルからは逃れられない」とコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、25日に多連装ロケット砲の試射視

ビジネス

4月東京都区部消費者物価(除く生鮮)は前年比+1.

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中