最新記事

ウイグル人

中国を捨てて、いざ「イスラム国」へ

2016年8月18日(木)18時00分
べサニー・アレン・イブラヒミアン

David Gray-REUTERS

<10代の若者から80代の老人までが、危険を承知でISISに参加し、イラクやシリアの戦闘地帯に移り住んでいる。抑圧されるウイグル人が中国を去る悲しい動機とは>(写真は14年にウルムチの街頭で治安部隊に抗議するウイグル人の女性)

 悪名高きテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員になった中国人イスラム教徒が少なくとも300人はいる、中国西北部の新疆ウイグル自治区で頻発する暴力行為の責任は過激なイスラム主義思想と、外国のテロ組織に感化された一部住民にある――中国の国営メディアや政府当局は繰り返しそう主張してきた。

 一方でアメリカの専門家や人権団体はこうした主張に異議を唱え、中国政府の政治や宗教における抑圧が問題の元凶だと指摘。ISISの戦闘員に加わっているウイグル人はわずかだと主張してきた。

 だがISISの離脱者から最近もたらされた情報によれば、実際にかなりの数のウイグル人がISISに志願している可能性が高い。

 7月20日に米シンクタンク「ニューアメリカ財団」が公表した報告書は、13年半ばから14年半ばまでにISIS戦闘員に加わった4000人以上の履歴データを検証し、そこに記入された出身国や渡航歴、教育水準、職業などの情報を分析している。

【参考記事】「ドーピング」に首まで浸かった中国という国家

 その結果、少なくとも114人のウイグル人が同期間中にISISの支配地域に入っていたことが判明した。

 この報告を書いたネイト・ローゼンブラットによれば、戦闘員のデータはシリア現地の情報源から入手したもの。分析の結果、ウイグル人の戦闘員は概して貧しく、教育水準が低く、職業的な技能も建設作業員程度だった。彼らの73%はISISが14年6月にイラク北部の主要都市モスルを制圧した後に加わっている。年齢層は他の民族集団に比べて幅広く、10歳から80歳まで多岐にわたる。彼らは家族ぐるみでISISの支配地域に「移住」しているらしい。

「みんな、ものすごく貧しい」と、ローゼンブラットは言う。「(中国では)職がなく、まともな教育も受けられない。外国へ旅するのも難しく、金銭的、心理的な負担はすごく大きいはずだ。それでも行くのだから、たぶんISISの支配地域に住みたいのだろう」

中国には居場所がない

 こうしたウイグル人戦闘員のほとんどは、ジハード(聖戦)に関してまったくの素人だ。ジハードに参加したことがあるかという設問には110人が「なし」と回答し、残る4人も無回答だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中