最新記事

ロボット

壁面を走り、炭素繊維で「クモの巣ハンモック」を編むロボット

2016年8月9日(火)16時15分
高森郁哉

Dezeen-Youtube

 ドイツの研究者が、壁面を走行する2台のロボットを連携させて、カーボンファイバーをクモの巣のように編んでハンモックを作るデモを公開した。将来、安価で効率的な工法として建築に応用されることが期待されている。建築とデザインを扱うウェブマガジン「dezeen」などが紹介した。

壁を這う2台の「ルンバ」

 このロボットを開発したのは、シュトゥットガルト大学のコンピューターデザイン研究所(ICD)に所属する大学院生、マリア・ヤブロニナ氏。プロジェクトを「単繊維構造物のための可動式ロボット製作システム」(Mobile Robotic Fabrication System for Filament Structures)と名付け、自身のサイトで動画や構造図などを公開している。


 dezeenが書いているように、これらのロボットの外見は掃除ロボット「ルンバ」に似ている。壁面を移動している様子は、まさにルンバが壁を這っているようだ。

giphy.gif

 だが、外見と動き以外にも、ルンバとの重要な共通点がある。これらのロボットは、本体下部に強力な吸気機構(バキューム・ジェネレーター)を備えているのだ。これにより本体と壁面との間の気圧を下げることで、壁に張りついたまま移動できるというわけだ。

1本の繊維を2台で編む

 完成したハンモックは複雑な幾何学模様をしているが、動画で製作過程を見るとわかるように、これは1本のカーボンファイバーで編み上げられている。構造物の「基礎」となる複数のポールは最初に人が壁に打ち込む必要があるものの、あとはプログラミングされたロボット2台が連携して編んでいく。

 ミシンのボビンに似たユニットにファイバーが収められていて、ロボットたちは壁が直交するコーナーでこのユニットを受け渡す。それぞれが担当する壁面のポールをセンサーで検知し、ファイバーを巻き付けたら、また相棒にユニットを渡す......という作業を繰り返し、最終的には実際に人が寝られるほどの強度を持ったハンモックを完成させる。

安価で効率的なロボット工法

 ICDのアヒム・メンゲス所長はdezeenの取材に応え、次のように述べている。「小型のロボットを複数連携させることで、既存の工法よりも安価で、時間も短縮できるようになる。1台か2台の大型ロボットを使うより、多数の小型ロボットを使うほうが、設計の自由度を大幅に広げ、単繊維構造物の可能性を十分に引き出せる」

【参考記事】空飛ぶ昆虫ロボット。疲れたら一休み。

 メンゲス所長とICDは、これまでにもカーボンファイバーを編むロボットのプロジェクトに取り組んできた。今年の6月には、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館の中庭で、ロボットがファイバーを編んで構築するパビリオンを公開。この構造物のデザインは、甲虫のさやばねをヒントにしているという。ロボットによるパビリオンの「増築」は現在も進行中で、来館客は半透明の膜の中でロボットがファイバーを編んでいる様子を眺めることができる。このパビリオン構築プロジェクトは11月6日まで展示される予定だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは一時154.89円まで上昇、34年

ワールド

印インフレにリスク、極端な気象現象と地政学的緊張で

ワールド

タイ中銀、経済成長率加速を予想 不透明感にも言及=

ワールド

共和予備選、撤退のヘイリー氏が2割得票 ペンシルベ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中