最新記事

米大統領選

トランプは米国債をデフォルトしかねない

借金を踏み倒す4度の破産にもまったく悔恨の念を見せない男が大統領になって債務を減らせと言われたら?

2016年3月14日(月)19時51分
マイケル・ルービン(アメリカン・エンタープライズ研究所レジデント研究員、国防総省の元職員)

どこ吹く風 破産申請で生き延びたトランプ企業のとばっちりを受けたのは中小企業 Dave Kaup-REUTERS

 大方の予想を覆し、ドナルド・トランプは共和党の大統領候補に決まりそうな雲行きだ。ライバルのテッド・クルーズやマルコ・ルビオが今後健闘したとしても、トランプに追いつくには遅過ぎるかもしれない。

 アナリストたちは長い間、トランプの政治的立ち位置や思想を知ろうともしなかった――そんなものがありそうにはとても見えなかったからだ。トランプは重要な論点について態度をコロコロと変えてきた。一貫しているのはただ1つ。会社を4度も倒産をさせたことをよしとする態度だ。

 もしそれが、政治的リーダーシップについてのトランプの考え方の一端を示すものであれば問題だ。

 トランプは2015年8月以降、自らの不動産王国が経験した4度の倒産について、事業のコストに過ぎないとか、既存の破産法の抜け穴を使ってうまくやった、などと言って批判をかわしてきた。

【参考記事】アメリカを狂わせた馬鹿マネーの正体

破産自慢の男が米政府の債務を見たら?

 実際、連邦破産法第11条によってトランプの複数の事業は債務をカットされ生き延びることができた。だがその陰では、トランプ王国から代金の支払いを受けられなくなった多くの中小の取引先が潰れていったことには思いが至らないのだろうか。

 トランプがこれまでの自分の「破産手腕」を誇りに思っているしたら、大統領として債務超過のアメリカと向き合ったとき、いったいどんな手を使ってくるだろう。

【参考記事】アメリカ政府債務の意外な貸し手

 何兆ドルにもおよぶアメリカの債務のすべてか一部を、債務不履行(デフォルト)するつもりではないかと、用心のため尋ねておくべきだろう。

 国民の反発を考えると、「責任ある財政再建」を採用するとは思えない。結局は、現行の債務水準は維持不可能である、と事実上のデフォルトを宣言するのではないか? そして荒っぽいドル防衛手段を採るかもしれない。

 言い換えると、「トランプ大統領」のもとで米国は、新たなアルゼンチンになるかもしれない。 アメリカの信用にとっても世界経済にとっても大打撃だ。

 トランプは、アメリカがデフォルトすれば海外の米国債の投資家が一斉に投げ売りを始めることは理解していないか信じていないようだ。米国債を投げ売れば投資家もその国も巨額の損失を被る。だからアメリカとの取引に応じるだろうと踏んでいるようだ。世界経済を相手にそんな瀬戸際戦略も使いかねない。

【参考記事】「財政の崖」危機と米国債格下げのから騒ぎ

 経営者としてのトランプの経歴は政治的な弱点だ。それだけでなく、トランプの性格や彼の行動パターンについての洞察を提供してくれる。トランプの戦略は、大企業のトップの戦略としても非常にまずい。ましてアメリカ大統領がそうした戦略を採用するとしたら、それはまったく別次元の問題となる。

This article first appeared on the American Enterprise Institute site.

Michael Rubin
is a resident scholar at the American Enterprise Institute and a former Pentagon official

Reprinted with the permission from the American Enterprise Institute.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に

ワールド

イスラエル、ガザ全域で攻撃激化 米は飢餓リスクを警

ワールド

英、2030年までに国防費GDP比2.5%達成=首

ワールド

米、ウクライナに10億ドルの追加支援 緊急予算案成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中