最新記事

難民

「難民をトルコに強制送還」案にEUで異論噴出 トルコに対する警戒心も

全員を強制送還するのは難民の扱いとして合法的なのか?

2016年3月18日(金)14時21分
ジョシュ・ロウ

人権無視 強制送還に反対してブリュッセルの首脳会議会場に掲げられた救命胴衣 Francois Lenoir-REUTERS

 EUは今週、ヨーロッパに流入する難民を一旦トルコに強制送還する対策案について首脳会議で合意した。しかし28の加盟国のうち少なくとも5カ国からは異論が出ている。

 首脳会議では2日目の18日に、EUからトルコに対策案を示して最終合意を目指す。

 今回合意したこの対策案は、EUに入国するシリア難民や移民を一旦トルコに強制的に送還するもの。難民や移民はトルコで審査を受け、一部がヨーロッパへの入国を許可されることになる。

【参考記事】モノ扱いされる難民の経済原理

 見返りとしてトルコは、広範な譲歩をEUに求めている。最大670億ドルの援助、ヨーロッパ旅行の際のビザ免除、EU加盟協議の促進といった項目があがっている。

 しかし、ヨーロッパへの難民や移民の流入を食い止めるためのこの対策案について、少なくとも5つの加盟国からは異論が噴出した。

 まず懸念を表明したのはハンガリー。今月7日、オルバン首相は合意を拒否する可能性を示唆していた。ハンガリーの政府関係者は今週、本誌の取材に対し、オルバンは加盟国への移民の割り当てを含む合意は受け入れないだろう、と話していた。オルバンは、現行のEUの移民割り当てにも反対してきた。

 EUのドナルド・トゥスク大統領は今週、ブルガリアも問題を抱えていることをほのめかした。トゥスクは、「トルコからEU加盟国への抜け道としてブルガリアを通るルートもある」と言及した。最終案の合意では、この点でも対処する必要があると、トゥスクは強調している。

【参考記事】欧州難民危機で、スロバキアがイスラム難民の受け入れを拒否

 スペインのラホイ首相は、合意に際して、ギリシャで審査を受けた移民だけをトルコに送還するよう求めると見られる。今週スペイン議会では、入国した難民や移民をすべてトルコに送還することが合法かどうかの議論があった。

 キプロスは、トルコのEU加盟協議を再開する合意は認めないことを表明している。キプロスはトルコの軍事介入により北キプロスが独立、分断国家になった。トルコはキプロスを国家として承認せず、キプロス船舶がトルコに寄港することも拒否しているため、加盟協議の凍結を主張している。

 フランスのオランド首相は先週報道陣に対して、人権問題やビザ免除の基準に関して「トルコに対して譲歩はできない」と語った。

 一方で人権団体や国連からは、難民を強制送還する今回の合意が国際法上合法かどうか疑念の声が上がっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中