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ミャンマー

存在さえ否定されたロヒンギャの迫害をスー・チーはなぜ黙って見ているのか

民主化運動のシンボル、スー・チーにさえ顧みられない少数民族の絶望

2015年5月29日(金)15時14分
ローラ・モフタ

迫害の末に 船でインドネシアにたどり着いたロヒンギャの母子。手に持っているのは識別番号 Beawiharta-REUTERS

 ミャンマーのイスラム教少数民族ロヒンギャの数千人が木造船などで漂流しているのが見つかった問題で、民主化運動の指導者でノーベル平和賞も受賞したアウン・サン・スー・チーへの批判が高まっている。

 ミャンマー政府は、この少数民族を「ロヒンギャ」と呼ぶことすら拒否し、「ベンガル人」と呼んでいる。ロヒンギャは何世代も前からミャンマーに暮らしているのだが、バングラデシュからの移民とみなす世論を是認している。結果としてロヒンギャの市民権は否定され、130万人が無国籍状態のままだ。

 こうした社会的差別に加えて、移住や雇用を厳しく制限したり、世帯で2人までしか子供を認めないという差別的な法律を適用している。

 国民の大多数が仏教徒のミャンマーでは、ロヒンギャへの敵意が高まり、襲撃事件も増加している。今週、最大都市のヤンゴンでは、ロヒンギャを「架空の民族」と呼び、漂流難民の国外追放を求める集会が開かれた。

 世界の人権活動家は、軍事政権に対抗して民主化運動のシンボルとなったスー・チーが、自らの影響力を使って暴力や迫害に反対できるのではないかと期待していた。しかしスー・チーは、こうした期待に応えてロヒンギャへの支持を表明することは避けている。

「誰かを非難しないから、と私を批判する人たちがいるが、彼らはそれがどんな事態を引き起こすかわかっているのだろうか」と、スー・チーは今年4月にカナダの新聞「グローブ・アンド・メール」のインタビューに語った。「倫理的な高みに立って正論を振りかざすだけでは、少々無責任だ」

世界の人権活動家を失望させた政治的判断

 今年末にも実施される大統領選への出馬も期待されるスー・チーは、慎重な姿勢を崩していない。おそらくはロヒンギャを擁護することで、自分と自分が率いる政党「国民民主連盟」が強烈な反発を食らうことを恐れている。

 またミャンマーでは、2011年に文民政権に移行して以降も軍部が強大な権力を握っていることから、スー・チーは軍部を刺激することにも慎重になっている。

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