最新記事

ウイグル騒乱

衝突の火元は漢族を襲った経済危機

輸出不振で、豊かだった広東省から民族間の矛盾が噴出。中国政府の緊張は続く

2009年7月16日(木)15時31分
メリンダ・リウ(北京支局長)

貧困と無学 暴動があったウイグル自治区のウルムチで飲み物を売るウイグル族の子供(7月11日) Nir Elias-Reuters

 世界金融危機の最も新しい犠牲者──それは中国の少数民族自治区の住民たちだ。7月5日、イスラム教徒のウイグル族が多い新疆ウイグル自治区で暴動が発生した。

 中国経済は全体として見れば今も順調だが、輸出依存型の都市は痛手を受けているところが多い。今回の暴動の火元が、中国の輸出全体の約3分の1を占める広東省だったのは不思議ではない。

 広東省の玩具工場が、政府の差別是正措置の一環でウイグル族の出稼ぎ労働者800人を雇ったのが、そもそもの始まりだった。

 漢族労働者はこれに反発。怒った漢族の1人が6月、ウイグル族が漢族の女性をレイプしたというデマを流したという。「報復」としてウイグル族労働者を襲った漢族の暴徒を、当局はすぐに逮捕しなかった。この件に関する抗議デモが新疆ウイグル自治区で始まり、暴動につながった。

 中国では89年の天安門事件以来、最悪規模の流血沙汰だ。89年はインフレと官僚の腐敗をめぐる反発がデモと弾圧に発展した。今回の暴動の背景には、社会に亀裂をもたらす不平等感がある。

 中国では民衆の暴動が急増。08年の「集団紛争」は7万件で、05年に比べて50%近く増えている。

格差是正措置に怒るネチズン

 中国の面積の6分の1近くを占める広大な新疆ウイグル自治区で、ウイグル族と漢族が不満をぶつけ合っている。ウイグル族は雇用や大学入試での優遇、一人っ子政策の適用免除といった待遇を受けているのに感謝の気持ちがないというのが、漢族の言い分だ。

 一方、ウイグル族は、自治区への漢族の移住促進政策によって生活を脅かされたと考えている。同地方では中華人民共和国が成立した49年以降、漢族の比率は6%から40%以上に増えた。

 ウイグル族の富裕層の間でも中国政府への反感が強まっている。実業家のラビヤ・カーディルは政府を支持していたが、ある日、政府は「多くのウイグル族を貧困と無学の状態に放置しておく」つもりだと気付いた。彼女は新疆ウイグル自治区における信仰の制限と刑務所での虐待を公然と批判し、99年に国家秘密漏洩容疑で投獄された。05年の釈放後、アメリカに亡命している。

 今回の暴動発生後、少数民族に対する経済的優遇措置に反発する中国人たちがインターネット上で怒りの声を上げた。経済環境が厳しくなるなか、少しでも不平等感があれば民衆の怒りに火が付きかねない。

 中国政府にとっては、長く暑い夏になりそうだ。

[2009年7月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き 副議長ら2人が利

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中