最新記事

銃犯罪

銃乱射犯に負け犬の若い男が多い理由

Why are Shooters Invaliably Young Men?

2016年1月14日(木)19時30分
フランク・マクアンドリュー(米ノックス大学心理学教授)

「支配的地位」を追求する男性の行動には、文化による違いもあるのかもしれない。しかし世界中どこであっても、支配的地位を得れば充実感と見返りが待っている、という支配への動機づけが男性にあることは確かだ。

 ジョナサン・ゴットシャルという研究者はこう表現する。「肉体的にほかの男性を支配することには、中毒性の魅力がある」

 そして、正しいタイミングで正しい人々に暴力をふるうことは、社会的な成功へとつながるのだ。

競争の原動力

 若い男性が、地位や優位性にとりわけ強い関心を寄せるのには、しかるべき進化上の理由がある。

 人類社会の草創期には、成人初期の段階で競争に勝つか負けるかで、集団におけるその男性の生涯の地位が確定した。10代はきわめて重要な時期だったのだ。

 そのため、若い男性にとって危険に満ちた戦いに挑むことは、食料や財産を手に入れたり、力を誇示したり、挑戦者から自分の地位を守るための能力を「見せつける」絶好の機会だった。勇敢な行為や恐れを知らない無謀な行為には、地位と尊敬という見返りが与えられたのだ。

 現代社会では、スポーツが広く推奨されている。そしてそれはどう見ても、進化を遂げた若い男性が自らの性質と折り合いをつけられるよう、暴力の建設的な代替手段として発達したものだ。

 古代ローマの剣闘士が戦った闘技場ではなく、法的に認められた場所で、若い男性は走ったり格闘したりして、優位を競い合う。古代の環境でも彼らはきっと、優秀な剣闘士や猟師になれただろう。

若い男性症候群

 よく知られているように、大半の人は、年配男性の暴力より若い男性の暴力に大きな恐怖心を抱く。この恐怖心には根拠がある。

 危険で攻撃的な行動に手を出しがちな若い男性の傾向に、カナダの心理学者、マーゴ・ウィルソンとマーティン・デイリーは名前をつけた。「若い男性症候群」だ。

 この2名の心理学者が、1975年のアメリカで年齢や性別によって殺人の被害者になる確率がどう変わるかを研究したところ、1人の女性が殺される確率は一生を通じてさほど変わらなかった。一方、男性に見られるパターンは驚きだ。10歳の時点では男性も女性も殺人の被害者になる確率は同じなのだが、男性は20代に入ると、殺される可能性が6倍に跳ね上がる。

 ウィルソンとデイリーの研究結果と一致するのが、2003年のシカゴ市のデータだ。殺人事件の犠牲者となった598人のうち87%は男性で、64%は17歳から30歳だった。男性が殺される確率が最大になるのは10代後半から20代後半で、その後、確率はどんどん低くなっていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国銀行業界、不動産不況と地方政府債務が

ビジネス

中国万科、負債削減とキャッシュフロー拡大目指す

ビジネス

第一生命HD、発行済み株式の5.26%・1000億

ビジネス

パナソニックとマツダ、EV電池供給で合意
MAGAZINE
特集:生存戦略としてのSDGs
特集:生存戦略としてのSDGs
2024年4月 2日号(3/26発売)

サステナビリティーの大海に飛び込んだ企業の勝算を、経営学者・入山章栄とSDGs専門家・蟹江憲史が読み解く

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大胆衣装にネット震撼

  • 3

    貨物船が衝突し崩れ落ちる橋...水中に落下する車...カメラが捉えた「崩壊の瞬間」

  • 4

    英キャサリン妃の癌公表で「妬み」も感じてしまった…

  • 5

    ロシア軍はもう「クリミア大橋を使っていない」──ウ…

  • 6

    「妄想の塊で常識に欠ける」と人事的に大不評、Z世代…

  • 7

    日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ば…

  • 8

    中小企業が賃上げできない、日本の「特殊」な要因...…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    プーチンの誤算、傷だらけでクリミア半島から逃げ出…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴を上げ、「見た瞬間に鳥肌!」 奇妙な生物の正体は?

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 6

    少女の髪の毛をかき分けると...もぞもぞ蠢く「シラミ…

  • 7

    ウクライナ軍のドローンに悩むロシア黒海艦隊...「地…

  • 8

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大…

  • 9

    左右に並ぶ「2つの顔」を持って生まれたネコが注目を…

  • 10

    貨物船が衝突し崩れ落ちる橋...水中に落下する車...…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「朝の歯磨きは食前・食後?」 歯科医師・医師が教える毎日の正しい歯磨き習慣で腸内環境も改善する

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    大阪万博、大丈夫?予言されていた「荒井注」化の危…

  • 6

    「完璧に保存された」ローマ文明以前の古代の墓...発…

  • 7

    野原に逃げ出す兵士たち、「鉄くず」と化す装甲車...…

  • 8

    『オッペンハイマー』日本配給を見送った老舗大手の…

  • 9

    健康長寿の一歩、年齢に負けず「長く続けるための」…

  • 10

    何をした? ロバート・ダウニー・Jr、助演男優賞で初…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中