最新記事

米安全保障

9・11テロ裁判「悪夢のシナリオ」とは

グアンタナモ基地のテロ容疑者20余人を米本土に移送し、一般法廷で裁く計画が進行中。陪審員が彼らに無罪評決を下す可能性はあるのか

2009年10月26日(月)18時40分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

運命やいかに? オバマが閉鎖を決めたグアンタナモ米海軍基地に拘束されるテロ容疑者たち(09年8月) Deborah Gembara-Reuters

 オバマ米政権は現在、25人ほどのテロ容疑者をキューバのグアンタナモ米海軍基地からアメリカ国内に移送する計画を進めている。2人の政府当局者が匿名を条件に明かした。国内4カ所の連邦地方裁判所で公判を受けさせるためだ。

 米司法省の広報官は、まだ最終的な結論は出ていないと強調。政権内でエリック・ホルダー司法長官が委員長を務めるタスクファースでは、今も軍事法廷と一般法廷のどちらがふさわしいか議論が続いているとの情報もある。軍事法廷で裁く計画は、ブッシュ前政権が進めていたものだ。

 一般法廷の可能性が濃厚になってきたことを示す動きもある。今週、マンハッタン、ブルックリン、ワシントンDC、北部バージニアの連邦地裁の警備当局に対し、グアンタナモからの容疑者約25人の移送に備えるよう通達があったという。

 この件に関する正式な発表は、タスクフォースが設定した11月16日に行われる予定だが、それより早まる可能性もある。発表があれば、議論が沸騰するのは間違いない。ここ数日間でさえ、ブッシュ政権のマイケル・ムケージー前司法長官など保守派が警戒の声を強めている。彼らは一般法廷で公判が行われれば、国家の安全保障を危険にさらし、米情報機関の調査方法に関する機密事項も公開されると懸念。容疑者の移送や収容についても警備の面で課題が多いという。

グラウンドゼロの近くで裁判?

 最大の問題は、最も重要な裁判をどこで開くかだ。ハリド・シェイク・モハメドとラムジ・ビナルシブ、ほか3人の9・11テロの共謀者は一体どこで裁かれるのか。

 連邦地裁での公判を強く支持する米司法省当局者は、バージニア州ニューポートニューズに新設された、セキュリティ面がしっかりしている裁判所を推す。この地裁の管轄区域内には、9・11で標的となった国防総省がある。一方、ニューヨークの検察当局は、マンハッタン南部フォーリー広場にある連邦地裁での公判を強く主張。ここは米史上最大の犠牲者を出したグラウンドゼロのすぐ近くだ。

 公判がどこで開かれることになろうと、警備に大きな負担がのしかかるのは間違いない。警備当局者はテロ容疑者の収監や、裁判所への送迎には多くの人員が必要だと警告する。裁判官や陪審員、検察官に対する24時間体制の保護も必要だ。「現時点で、こうした裁判の警備を担当する余剰人員はいない」と、ある当局者は言う。

テロリストが自由の身になる日

 それでもホルダーたちは、アルカイダのテロ容疑者たちに公判を受けさせることが、アメリカの司法制度の正統性を示す最良の方法だと信じている。大惨事によってもたらされた人々の精神的苦痛を和らげることにもなるという。

 ホルダーたちは、一部で言われているような「悪夢のシナリオ」の心配はしていない。陪審員が無罪評決を下し、テロリストが自由の身になるというシナリオだ。「『アメリカに死を!』と叫ぶ人物に、共感する陪審員は少ない」と、ある当局者は言う。今でもモハメドは「アメリカのすべての憲法と法律を悪」と見なしていると断言する。ビナルシブも、アメリカのビザが取得できずに9・11の実行犯として「殉教者」になれなかったのが残念だと発言している。

 司法省の広報官マシュー・ミラーは「まだ何も決まっていない。だが司法省は軍法委員会の検察官と協力しながら話を詰めている。11月16日までには何らかの発表ができるだろう」と話す。「何年もはっきりしない状態が続いたが、現政権はテロリストに法の裁きを下すため、懸命に努力している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中