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中国

今度は銀行をでっち上げた偽造大国

「アメリカの銀行を買収した」という大ボラが示す中国・偽物市場の限度のなさ

2012年6月19日(火)17時45分
タリア・ラルフ

栄誉 林は米銀買収の快挙により中国人民政治協商会議(写真)の委員に任命された David Gray-Reuters

 今年1月、デラウェア州を拠点とするアメリカの銀行をチャイナマネーが買収した、というショッキングなニュースが駆け巡った。浙江省・温州出身の林春平(リン・チュンピン、41)率いる中国春平集団が、破たんした米アトランティック銀行を6000万ドルで買収し、USA・ニューHSBCフェデレーション・コンソーシアムと改名したというのだ。

 チャイニーズ・ドリームを象徴するような買収話に中国メディアは熱狂し、林のキャリアを「伝説的」と絶賛。林は中国政界の中枢う機関である中国人民政治協商会議(CPPCC)の委員にも任命された。

 ところが、この話にはとんだオチがあった。アトランティック銀行は架空の存在で、買収話はすべて大ボラだったのだ。 

 嘘が発覚したのは、事実確認をしようとした中国メディアがアトランティック銀行が存在しないことと、林が新銀行を登記していないことを指摘したため。話に信ぴょう性をもたせるため、林はアトランティック銀行が創業85年の老舗で、金融に強いイメージがあるユダヤ人がオーナーだったという脚色までしていた。3月に会見を開いた林は、話を誇張したことについては謝罪したが、悪意はなかったと語った。

 林は先週、買収とは無関係の脱税容疑で、2週間の逃亡の末に広東省で逮捕された。他に6人が共犯の容疑で身柄を拘束されている。

「無名のビジネスマンが外国の、それもアメリカの銀行を買ったと聞いて、人々は衝撃を受けた。彼は銀行家ですらなかったのだから」と、財政法に詳しい中欧国際工商学院(CEIBS)の研究員、朱小川(チュー・シアオチョアン)はAP通信に語った。「主流メディアが報じたのだから事実に違いないと誰もが思った。人々は温州商人のリッチさに驚愕したものだ」

 温州の経済界も、林のサクセスストーリーに喝采した。当時、中央政府の金融引き締め政策によって大物起業家の破たんが相次いでいた地元の沈滞ムードを吹き飛ばす明るい話題だったからだ。「林の行為はこの町の信用を傷つけた」と、 温州中小企業委員会のトップは語っている。

推薦状も成績証明書も偽物が当たり前

 林の大ボラは、中国にはびこる偽物主義が新たな次元に到達したことの表れともいえる。iPhoneそっくりのスマートフォンに海賊版DVD、ルイ・ヴィトンのコピー商品まで中国の「偽物市場」は大盛況だが、林は銀行をまるごとでっち上げてしまったのだから。

 もっともこれは氷山の一角かもしれない。山東省では6月初旬、架空の大学が地元メディアによって告発された。大学入試の全国統一試験で高得点を取れなかった学生に、実在する山東軽工業学院の名をかたって偽の合格通知を送り、4年分の学費4800ドル相当をだまし取ったのだ。学生らは大学の施設を借りて行われた授業に出席していたが、卒業間近になって学位を得られないことに気づいたという。

 アメリカへの留学希望者向けにコンサルティングを行うジンチ・ドットコムの中国支社ジンチ・チャイナによれば、アメリカの大学に提出される中国人志願者の推薦状の90%は偽物で、70%の入学志望エッセイは代筆されたもの。成績証明書の半数も偽造されているという。
 
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