最新記事

ネット検索

勝者はグーグル、敗者は中国

検閲問題などをめぐる半年間の戦いは、グーグルの事実上の「完勝」で結着した

2010年7月12日(月)16時09分
クリス・トンプソン

けんかの行方 当初はすごんで見せた中国政府だが、やはりグーグルなしでは生きられない? Jason Lee-Reuters

 ついにグーグルが中国政府とのけんかに勝った。7月9日、同社は中国政府から事業免許の更新を認められたと発表した。グーグルを叩き出すと息巻いていた中国政府が強硬姿勢を一歩後退させた形だ。

 中国政府とグーグルの間では今年に入って、検閲、人権、ウェブ上の情報の自由をめぐって対立が続いていた。

3月には、中国政府による検閲を避けるために、グーグルが自社の中国版サイトから香港版サイトへの自動転送を開始した。つまり中国版グーグルにアクセスすると、検閲のない香港版グーグルのサイトに自動的に転送されるようにしたのだ。たとえばチベット問題に関して、中国本土のネットユーザーが自由に情報に触れられるようにすることが狙いだった。

 この措置に対して、中国政府は激しく反発。中国の国内で事業を行うための免許の更新をグーグルに認めない可能性もちらつかせていた。

 7月に入って、グーグルは香港版サイトへの自動転送を中止。中国版サイト(サービスは停止中)に、香港版サイトへのリンクを張る形式に変更した。大した譲歩ではない。この程度の変更では、中国政府が態度を軟化させるとは考えにくかった。中国政府がグーグルに対し、検閲を受け入れるか撤退するかの二者択一を迫るのは、時間の問題に見えた。

実質的には「検閲なし」に

 結局、折れたのは中国政府だった。デジタルビジネス関連の有力ニュースブログ「ペイドコンテント」によれば、中国政府とグーグルの間では、以下のような条件で話がまとまったという。

 中国版グーグルのサイトはサービスを再開する。提供するのは、音楽と商品情報の検索サービスと翻訳サービスだけ(中国本土のネットユーザーが求めているのは大抵これらのサービスだ)。中国版グーグルでは、ウェブ検索はできない。

 しかし、香港版サイトへのリンクは残す。つまり、中国本土のネットユーザーは誰でも、1回余分にマウスをクリックすれば、世界のニュースを検閲なしで読めるのである。

 中国政府はグーグルを撤退させたくなかったのだろう。そこで両者が一緒に知恵を絞って、中国がメンツを保ちつつ、グーグルが検閲なしの情報提供を行える道を探し出したようだ。

 このドラマに何らかの第2幕がない限り、あるいは香港版サイトの利用が想定外に少なくてグーグルの中国事業の採算が悪化しない限り、今回の戦いはグーグルの完勝と言っていいだろう。

The Big Money.com特約)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スー…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中