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2009.06.29

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窪寺恒己(海洋生物研究者)

謎だらけの巨大イカを初めて撮影した男

2009年6月29日(月)15時09分
フレッド・グタール(サイエンス担当)

 海の怪物は、研究の対象よりもフィクションの題材になることが多い。

 フランス人作家ジュール・ベルヌの『海底2万マイル』では、ネモ艦長が8誡近くある巨大イカと戦った。小説『白鯨』では、エイハブ船長が巨大な白い鯨を追いかけた。スティーブン・スピルバーグは映画『ジョーズ』で、人食いザメを追いかける男を描いた。

 だが近年では、巨大イカの探索は大まじめな科学プロジェクトになっている。

 ダイオウイカの存在が疑われたことはなかったが、科学者たちは漁師が見つけた死骸しか見たことがなかった。どんな姿をして、どこにすみ、どうやって捕食しているかも謎のまま。探索も難航し、多くの学者があきらめていた。

 それでもあきらめない者が何人かいた。たとえばオークランド大学(ニュージーランド)の著名なイカ専門家スティーブ・オシェーは、漁師のネットワークを張り巡らし、ダイオウイカの死骸を目撃したら連絡してくれるように頼んだりしていた。

 窪寺恒己は、イカを餌にするマッコウクジラに注目した。04年、マッコウクジラを追跡し、東京から1000キロ南の沖合で、釣り針をカメラとストロボとともに水深900メートルに下ろした。そして体長約8メートルのダイオウイカの撮影に成功したのだ。  写真を見た世界中の動物学者たちは、興奮に身を震わせた。オシェーは「信じられない!」とニューヨーク・タイムズに書き、窪寺らの成果に脱帽すると絶賛した。

 シカゴ・トリビューンは社説で、「(同僚を含めた)2人の日本人科学者によって、謎は解き明かされた。見つけにくいイカを『白鯨』のエイハブ船長のように辛抱強く追いかけた」とたたえた。  咋年、窪寺はさらなる偉業を成し遂げた。3.5メートルのメスのダイオウイカを生きたまま捕らえたのだ(ただし海面に引き揚げる際に死んでしまった)。この捕獲が前回の撮影ほど騒がれなかったのは、すでにダイオウイカの神秘性が薄れてしまっていたからだろう。

 窪寺の写真は、巨大イカをフィクションの世界から現実の世界に引きずり出したのだ。

[2007年10月17日号掲載]

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