プレスリリース

子どもの英語アウトプットをサポートしたいときの3つのポイント

2022年06月29日(水)14時30分
第二言語習得を脳科学的に研究する尾島 司郎教授(横浜国立大学)は、「おうち英語」(家庭で子どもが英語に触れる環境をつくること)に取り組む親御さんや学校の英語教員向けにSNSを通じた情報発信をしています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、英語習得やおうち英語に関するさまざまなテーマについて尾島教授にお話を伺いました。第4回では子どもの英語アウトプットに対する親のサポートについて考えます。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/315753/img_315753_1.png
尾島 司郎 教授

<インタビューサマリー>
●ポイント1:子どもが「交流したい」と思える誰かと英語で話す機会をつくれるとよいが、できなくても悲観する必要はない。
●ポイント2:子どもが英語を口に出したときは、無理をして英語で返答したり英語で話しかけたりしなくてもよい。英語を使おうとしている子どもの姿勢を温かく見守る。
●ポイント3:子どもの英語が間違っているときは、長期的な視点で考えると、その場で直そうとするのではなく、質の良いインプットを大量に与えて正しい文で言えるようになるのを待つほうがよい。間違いばかりを気にしないようにすることも大切。


■ ポイント(1)アウトプットの機会づくりは「できる範囲で」でOK

―前回のお話では、子どものころからアウトプットの機会があれば、より無意識に、スムーズに話せるようになる可能性が高まることがわかりました。ただ、日本では、子どもに英語でのやり取りを頻繁に経験させることは難しい家庭が多いと思います。親はどのように考えればよいでしょうか?

日本の英語学習では、自然なコミュニケーションの機会がないことが普通です。
ですから、そのような機会がなくても悲観する必要はありませんし、親として責任を感じる必要もありません。もし無理のない範囲で可能なら、子どもが「話したい」、「交流したい」と思える誰か(ネイティブ・スピーカーの先生やお友だち、ネイティブ・スピーカーではないけど英語が話せるお友だちなど)と会える機会や、オンラインで話せる機会があるといいですね。同じようなニーズを持つ子どもたちが集まる会などでもいいかもしれません。

―例えば、子どもは、聞こえた英語をリピートする、何度も聞いている英語の文を覚えて暗唱する、知っている英語を使っておままごとをする(独り言)、といった方法で英語を口に出すことがあります。他者とのやり取りではありませんが、アウトプット力を身につけるにあたってプラスの効果はありますか?

リピートする、暗唱する、独り言を言うなどの行為は、ほかの人とのやり取りではないので、アウトプットの効果としては限界もありますが、英語を使うトレーニングにはなるので、英語表現の習得を促進する効果があると思います。

また、歌をうたって楽しいのと同じで、ことばは使って楽しいものです。ことばを自分の一部として楽しみながら長く使っていくことが大事ですね。
そもそも、第二言語習得は家庭で完結させる必要はないので、家庭でできる範囲で、その一部の習得を促進させるサポートができれば十分です。


■ ポイント(2)おうち英語では、親が英語を使わなくても大丈夫

―家庭で英語環境をつくっている場合、子どもが英語を口に出したときに親はどのような反応や返答をすると英語習得にとって効果的でしょうか?

もちろん、親が何かポジティブな反応を見せたほうがいいですが、母語の習得は、親のポジティブな反応がなくても起こります。ですから、子どもの第二言語習得に親のポジティブな反応が必須かはわかりません。

子どもが何か言ったときに親が反応してあげることは、子どものことばや情緒の発達を促進させるという面があると思いますが、世界中のいろいろな部族を見てみると、子どもがペラペラと話し出すまで親はまったく話しかけないという部族もいます。
また、親が子どもに話しかけるときには、子どもがわかりやすいように抑揚を豊かにする、ゆっくり話す、などの特徴があり、「マザリーズ」と呼ばれていますが、親がこのような話し方をしない部族もいます。

ですから、親の反応や語りかけは、あったほうが言語習得は促進されるけれど、なくても習得できる、つまり必須の条件ではないと思っています。
おうち英語においては、英語が話せる親御さんは英語で返答したらいいと思いますが、英語を話せない親御さんが無理して英語で返答したほうがいいとは思いません。負担になりすぎない程度に、ポジティブな反応をすればいいのではないでしょうか。


■ ポイント(3)間違いがあったときには、「訂正」よりも「大量のインプット」のほうが大切

―子どもの英語に間違いがあったときには、どのように反応したらいいでしょうか?
特に英語が得意な親御さんは、このような悩みを抱える方が多いようです。

これは、長期的な視点で考えたほうがいいですね。子どもの英語に間違いがあった場合、英語の先生であればリキャスト(メッセージの内容は同じだが正しく表現されている文で返す)をするかもしれませんが、親は、先生である必要はありません。自分の語学力に自信があればやってもいいですが、小さい子どもは、リキャストされても、間違いを直されたことに気づきません。

かといって、子どもがポロッと言った英語の間違いを親がはっきりと訂正してしまったら、子どもはいやになりますし、親もそんな役割を担うのはいやになると思います。明らかに勉強として英語を使っている場であれば、はっきりと訂正してあげてもいいですが、小さい子どもは明示的に訂正されてもなかなか直せない、ということが言語学の研究で言われています。

大人は、ことばを自分から切り離して、それについて考えたりすることができますが、小さい子どもは、ことばを客観視することができないからですね。

―親が英語の間違いを直そうとしても、子どもにとっては、あまり効果的ではないのですね。

子どもにとって、ことばというものは、自分の気持ちを表現するツール、親の意図を理解するツールであり、それが体に染みついています。体で覚えている、体得している、自分とことばが一体化している、というイメージですね。ですから、「〜と言いなさい」と言われたとしても、それを真似して言うかもしれませんが、理解はできないので、次の瞬間からもう忘れてしまうと思います。

明示的な指導が効果的になってくるのは小学校高学年以降ですが、そのような指導で知識を得たとしても、それを自動的に使えるようにならないことは多いです。明示的に教えることができればすべてが解決するかいうと、そうではなく、むしろ、そこから先に長い時間がかかります。

ですから、親は、アウトプットの間違いを訂正するよりも、良質なインプットを大量に与えて、それが定着した先に自分で正しい文で言えるようになるのを辛抱強く待つほうがいいですね。

■ おわりに:親のサポートは「できる範囲で」&「温かく見守る」を心がける

ことばは、母語であっても、外国語であっても、生涯にわたって、さまざまな場面で学び続けるものです。幼少期の取り組みだけで将来の言語能力が決まるわけではないため、子どもが興味をもって長く学び続けたいと思えることが大切です。
できる範囲でアウトプットの機会をつくりながら、子どもの成長を温かく見守る。親がそのようなリラックスした姿勢でいることが、子どもが本来持っている「アウトプットは楽しい」という気持ちを育て、将来の英語を話す力につながるのではないでしょうか。

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■<横浜国立大学 教育学部 尾島 司郎 教授>インタビュー〜
第3回: https://bilingualscience.com/english/2022062401/
第4回: https://bilingualscience.com/english/2022062701/

■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月 URL:https://bilingualscience.com/


詳細はこちら
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