コラム

マイナンバー歴44年の僕から一言

2015年10月09日(金)17時05分

 その後もidentity theftは増える一方だ。詐欺師の手に渡ったら、さまざまな場面でSSNが悪用されてしまう。

 たとえば、金融関係。盗んだSSNで銀行口座を開いたり、クレジットカードを作ったりできる。小切手やカードで買い物したあと、請求書はSSNの持ち主、つまり被害者に届く。SSNが盗まれたことに気づくのはそれを見た瞬間のこと。「あら? 俺、車を買っちゃった? 運転免許もないのに?」とか、「あら、ジャスティン・ビーバーのコンサートチケット?」とか、ありえない買い物で初めて発覚するようだ。

 また、毎年春には詐欺師が成り済まし確定申告をするのが恒例行事。勝手に住所変更手続きをし、税務署をだまして還付金を受け取るという手口だ。もちろん当該の還付金は被害者に届かない。また、年金の場合も、本人より先に申し込んで同様に住所変更し、給付を代わりに受け取るという手口がある。素早く手続きや申告を済ませる詐欺師のマメさにもびっくりするが、大変な被害だ。

 医療関係でも詐欺が多い。病院で成り済まして治療を受けることもある。もちろん請求は被害者へ。さらに恐ろしいのは、被害者の治療歴が変わってしまうこと。たとえばアレルギーや血液型が記載されてしまったら本当に危険。

 でも、これに限っていえば、日本はマイナンバー制度による危険性は増えないはず。日本では保険証に顔写真が載っていないから、もともと成り済ましのリスクにさらされている。安心だね!

 identity theftに遭ったら、解決の責任は被害者にあるのも厄介だ。請求先、病院、銀行、政府などとやりとりしなければならない。解決するのに数年かかったりするらしいし、その間、ローンを借りたり、カードを作ったり、家を買ったりするのは大変困難になるという。

 そこで立ち上がったのが、identity theftから守ってくれる会社。有名なのは、顧客を詐欺から守り、万が一詐欺に遭っても100万ドルの補償金を約束するLifeLock社だ。大胆な広告手法をとり、社長の顔写真とともに本人のSSNを堂々と看板やウェブサイトに載せた! 普段は考えられない、あまりにリスキーな行動だけど、それぐらい自社の保護サービスは安心できると社長は身体を張ったわけだ。

 ちなみに、広告の効果が抜群だったのか、社長はこれまで13回も詐欺被害に遭っているという。どうやら自分すら守れていない様子。しかも広告の内容が虚偽だとされ、1200万ドルの罰金を科された。お前が詐欺師じゃん!

 アメリカ政府も国民を守れているとはいえない。毎年数百万人ものアメリカ人が被害に遭っている。しかもそのSSNが悪者の手に渡るのが、政府のせいだったりすることも度々。日本でも6月に日本年金機構のパソコンから125万人分の個人情報が流出したよね。これもひどいけど、ここでもまた、先輩アメリカの方がすごい。7月に政府のデータベースから2100万人のSSNが盗まれた。

 「どうしてくれるんだ」って? これが、何もしてくれないんだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

MAGAZINE

特集:残念なリベラルの処方箋

2019-7・ 2号(6/25発売)

日本でもアメリカでも存在感を示せない「リベラル」 対抗軸として政権担当能力を示す方法は?

人気ランキング

  • 1

    未婚女性が結婚相手の男性に求める年収とは......理想と現実の大きなギャップ

  • 2

    生涯未婚率は職業によってこんなに違う

  • 3

    フェイスブックのコンテンツ監視員の職場は「搾取工場」――元監視員が激白

  • 4

    貧困家庭の女子が人生を見限る「自己選抜」......「…

  • 5

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の…

  • 6

    性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

  • 7

    少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルー…

  • 8

    米富裕層から大統領候補へ「私たちに課税して下さい」

  • 9

    家庭料理に求めるレベルが高すぎて、夫の家事分担が…

  • 10

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 1

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 2

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......その理由は?

  • 3

    テスラの半自動運転システムで居眠りしたまま高速を50キロメートル走行

  • 4

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 5

    走る車の中から子猫を投げ捨て!相次ぐ蛮行に怒りの…

  • 6

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  • 7

    アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体…

  • 8

    イランの無人機撃墜がアメリカにとって重大な理由

  • 9

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 10

    「何か来るにゃ...」 大阪地震の瞬間の猫動画に海外…

  • 1

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 2

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 3

    台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死

  • 4

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 5

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 6

    プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正…

  • 7

    脳腫瘍と思って頭を開けたらサナダムシだった!

  • 8

    タピオカミルクティー飲み過ぎで病院!? 中国の14…

  • 9

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 10

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版編集部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!