コラム

アーティスツ(4):サミュエル・ベケットと現代アート

2016年12月10日(土)12時00分
アーティスツ(4):サミュエル・ベケットと現代アート

サミュエル・ベケットのポートレイトを見るアイルランドのメアリー・マッカリース大統領(1999年) AS/JRE-REUTERS

<トランプの大統領戦勝利に対して、多くのアーティストがコメントを出した。そればかりでなく、近年、アーティストの役割と行為は、以前とは決定的に変わってきている>

前回記事:アーティスツ(3):参照と引用──揺れる「アート」の定義

 ドナルド・トランプが大統領戦に勝利してから、多くのアーティストが怒りや悲しみや戸惑いを表明している。ヴィック・ムニーズは全面真っ黒な画面や眉間にしわを寄せて頭を抱える自画像を、ヴォルフガング・ティルマンスは泣き崩れる自由の女神の画像を、オラファー・エリアソンは「行動をやめてはならない」という直接的なメッセージを、それぞれインスタグラムに投稿した。オノ・ヨーコは自身のツイッターに、ほとんど叫び声だけの音声ファイルをポストした。投票日前に発行された雑誌『ニューヨーク』の表紙デザインを担当し、白黒のトランプの顔の上に「LOSER」という赤地に白抜きの文字を配したバーバラ・クルーガーは「これは悲劇だが、おぞましいことに(選挙戦に関わった)プレイヤーたちのことを思えば、悲喜劇でもある」とコメントしている(2016年11月10日付アートネット・ニュース。セーラ・カスコーン「Here's What Artists Have to Say About the Future of America Under Donald Trump」)。アネット・ルミューは、ホイットニー美術館が購入した自作「Left Right Left Right」を天地逆さまに展示した。人々が拳を突き上げている写真30点から成るインスタレーションだ(2016年11月17日付ハイパーアラージック。ケアリー・ダン「In Response to Trump's Election, Artist Asked the Whitney Museum to Turn Her Work Upside-Down」)。

repost from boygeorgeofficial image by gee vaucher / crass

Wolfgang Tillmansさん(@wolfgang_tillmans)が投稿した写真 -

 ニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで、奇しくも投票日直後に個展を開催したアンドレアス・グルスキーは、ドイツの現役および元首相4人がバーネット・ニューマンの絵画の前に並んで後ろ姿を見せている写真を出展した。デジタル技術で画像処理を施した2015年の作品である。アンゲラ・メルケルは、言うまでもなくドナルド・トランプの批判者であり(11月12日付ニューヨーク・タイムズは「リベラル・ウェスト(西側諸国)の最後の擁護者」と評している)、ヘルムート・シュミットも、ヘルムート・コールも、ゲルハルト・シュレーダーも、明らかにトランプとは価値観を異にする政治家だった。グルスキーはアートニュースの取材に対して「こんな選挙結果は期待していなかったけれど、ドイツの首相執務室から私がつくったイメージは、選挙前とは違うインパクトを持つことになったと思う。ある意味で、4人の首相はトランプに異を唱えている。そして彼らは、私たちが考える現代世界の、あり得べきリーダー像であるともいえる」(2016年11月11日付。ネート・フリーマン「'IT'S NOT JUST AN IMITATION OF PAINTING': ANDREAS GURSKY ON HIS PHOTOS OF TULIPS, GERMAN LEADERS, AND AMAZON STORAGE FACILITIES, AT GAGOSIAN」)と答えている。

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

ニュース速報

ワールド

1月の訪日外国人は9%増の250万人、1月として最

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」に据え置き=2月月例経済報

ビジネス

日銀新体制、安倍政権下で金融政策正常化は困難=白井

ビジネス

英鉄鋼業界は依然脆弱、EU離脱に伴うリスクも=タタ

MAGAZINE

特集:韓国人の本音 ピョンチャン五輪と南北融和

2018-2・27号(2/20発売)

平昌五輪での北朝鮮の融和外交が世界を驚かせたが、当の韓国人は南北和解と統一をどう考えている?

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    北朝鮮「スリーパーセル」論争に隠された虚しい現実

  • 2

    食べつくされる「自撮りザル」、肉に飢えた地元民の標的に

  • 3

    裁量労働制のどこがウソなのか?

  • 4

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 5

    銃乱射の被害者を訪問したトランプ、ご機嫌で大顰蹙…

  • 6

    「世界の終わりだ」 KFCのチキンが消えてパニックに…

  • 7

    「ビットコイン、通貨として失敗に終わった」=英国…

  • 8

    犬も鬱で死ぬ 捨てられたショックで心は修復不可能に

  • 9

    犬の「うんちを食べる行為」の謎がついに解けた!?

  • 10

    「地球の気温は250度まで上昇し硫酸の雨が降る」ホー…

  • 1

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 2

    北朝鮮に帰る美女楽団を待ち伏せしていた「二重脱北者」

  • 3

    「愛してると伝えて」米フロリダの銃乱射の教室で何が起こったのか

  • 4

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 5

    岐阜県の盗撮疑惑事件で垣間見えた、外国人技能実習…

  • 6

    「死のない肉」クォーンが急成長 人工肉市場がアツい

  • 7

    広がる「工作員妄想」~三浦瑠麗氏発言の背景~

  • 8

    北朝鮮「スリーパーセル」論争に隠された虚しい現実

  • 9

    50歳以上の「節操のないセックス」でHIV感染が拡大

  • 10

    金正恩のお菓子セットが「不味すぎて」発展する北朝…

  • 1

    265年に1度? 31日夜、「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」が空を彩る

  • 2

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 3

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 4

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 5

    北朝鮮と戦う米軍兵士は地獄を見る

  • 6

    「逆にいやらしい」忖度しすぎなインドネシアの放送…

  • 7

    ビットコイン暴落でネット上に自殺防止ホットライン

  • 8

    北朝鮮に帰る美女楽団を待ち伏せしていた「二重脱北…

  • 9

    北朝鮮を戦争に駆り立てるトランプに怯え始めたロシア

  • 10

    50歳以上の「節操のないセックス」でHIV感染が拡大

日本再発見 シーズン2
デジタル/プリントメディア広告セールス部員募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 特別編集

丸ごと1冊金正恩

絶賛発売中!