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日本人の英語が上手くならない理由 『日本人の英語』著者が斬る30年間の変遷

CHANGES OVER THREE DECADES

2019年05月22日(水)16時10分
マーク・ピーターセン(金沢星稜大学人文学部教授、明治大学名誉教授)

英語教科書が「単純化」している理由として、少子化の影響も大きいと思える。商業的に厳しい時代を迎えている現在の教科書出版社は、よりシンプルな内容のテキストを争って作っている、というのが現状のようだ。そうすることによって、現場の先生たちに選んでもらえる可能性が少しでも高くなり、ある程度の売り上げが確保できるわけだ。学習者にとって不幸なことに、内容うんぬんより、まず売れることが優先されるのだ。

日本的民主主義では、英語が必修科目である以上、クラスで最も英語の不得意な生徒がついてこられる授業にしなければならない。現場の先生たちの仕事は大変だ。そこで、「長文の語数を減らして英文をやさしくしてほしい。また、複雑な構文で一文が長くなっている場合、生徒が音読する際につまずいてしまうこともあるので、ある程度短い文にし、難しい単語や表現は極力使用しない教科書が望ましい」という趣旨の現場の教師の声が、出版社へメッセージとして伝わっていく。

英文読解に時間を割く代わりに、外国人とのコミュニケーションに役立つ英会話を学ばせよう、と思っているようだが、不十分な文法知識と少ない語彙では片言の会話しかできるようにならないことは、真剣に語学を学習した人にとっては自明のことだろう。

体育の授業だけでスポーツ選手にはなれない

このように日本の学校英語には確かに問題があるのだが、学校で音楽の授業を何年か受けただけでプロの演奏家になれると思っている人もいなければ、体育の授業を何年か受けただけでプロのスポーツ選手になれると思っている人もいないであろう。しかし、なぜか、英語の話となると見方が変わってくる。「何年も学校で英語の授業を受けたのに、英語を必要とする仕事ができるほど身に付いていない。日本の英語教育はダメだ」と真顔で不平を漏らす日本人は少なくないようである。

幸い、日本は「英語教材天国」であり、必要性を感じて自分から進んで練習しようと思えば、いくらでも上達できる環境は整っている。昔から素晴らしい番組が多いNHKラジオ講座は、今「NHKゴガク」というオンラインサービスも行っており、『実践ビジネス英語』などの講座を1年間きちんと続ければ、相当に上達が期待できるはずである。こうしたチャンスを生かさないで、これまでの英語教育政策に文句を言ったり、日本人の英語の未来を憂いてばかりいるのは、精神衛生上あまり健康的なこととは言えないだろう。

英語が下手な理由ばかり探していても何も変わらない。教育関係者たちも、もし日本人の英語力を本気で変えたいのなら、今度シンポジウムを開くときは「なぜ下手なのか」ではなく、「英語が上手な日本人は、どうやって上手になったのか」と聞いたほうが大いに有意義であるはずだ。

(筆者は80年に来日し、日本語で執筆活動を続ける。『日本人の英語』は100万部を超えるベストセラーに。新刊『英語のこころ』など著書多数)

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※2019年4月9日号「日本人が知らない 品格の英語」特集より転載。

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