アングル:トランプ政権のAIインフラ振興施策、岩盤支持層が「ノー」
写真はデータセンター建設計画に反対する地域住民。11月19日、米ペンシルベニア州ダンビルで撮影。REUTERS/Hannah Beier
Jarrett Renshaw Laila Kearney
[ダンビル(ペンシルベニア州) 1日 ロイター] - 300人以上の住民たちは団結を示す迷彩柄の帽子と赤いシャツを身に着け、ペンシルベニア州農村部にある都市計画委員会の会合にやって来た。データセンター計画が住民たちの農地を切り崩して谷間の静かな生活を一変させてしまうのではないかと恐れて抗議するためだ。
こうした住民の大半はトランプ米大統領が2024年の大統領選の際に20ポイントの差で勝利したモントゥール郡の忠実なトランプ支持者だ。彼らは人工知能(AI)インフラの迅速な整備を推進する米政府の動きに反発した。米政府は国内の土地の安い農村地域でデータセンター建設の増加を促している。
人口1万8000人のこの郡の住民たちは11月のある晩、マイクの前に立ち、発電事業者タレン・エナジーの担当者に対し、計画中のデータセンターが住民の公共料金を上昇させ、農地を減らし、地域の水資源や自然資源に負担をかけるのではないかと質問した。
「区画変更にノーと言おう、水を流し続けて作物を育て続けるために」。2人の女性は歌手ウディ・ガスリーのフォークソングをもじって歌った。
米国の政治指導者たちはAI開発の競争力を維持するため、データセンターの容量と新たな電力供給の迅速な拡大を求めている。共和党のトランプ氏は、経済と国家安全保障の優先課題としてこうした取り組みを推進し、地域社会に発言権を与える環境規制や許認可手続きを迂回するよう政権に指示した。
ペンシルベニア州は民主党のジョシュ・シャピロ州知事と共和党のデーブ・マコーミック上院議員が、急成長する業界に対する投資を呼び込むため、開発業者にインセンティブやインフラ整備を提供している。
一部の地域は経済効果を歓迎している。しかし、ペンシルベニア州中部に位置するモントゥール郡で起きた反発は、農家、環境保護活動家、住宅所有者らが党派を超えて結束しデータセンター建設の増加に抵抗する動きとなった。
米調査会社データセンター・ウォッチの今年初めの報告書によると、テキサス州、オレゴン州、テネシー州などは地元の反対のために事業規模約640億ドル相当のデータセンター建設計画が阻止されているかまたは遅延している。ペンシルベニア州の抗議では、自分たちの地域が広大な複合施設が立ち並ぶ「データセンターの町」に変わってしまうのではないかと懸念する。
こうした反発が広がれば、トランプ政権とテック業界が、世界の競合に遅れまいと急いで進めるAIインフラ整備の動きが鈍るおそれがある。
政治アナリストによると、こうした事業計画に対する怒りが26年の中間選挙に向けて共和党が直面する物価高騰懸念をさらに悪化させる可能性もあるという。
ペンシルベニア州アレンタウンにあるミューレンバーグ大学の政治学教授のクリス・ボリック氏はAIインフラの政治はまだ方向性が定まっていないと指摘。「業界はまだ進化しており、政治家たちはどのような立ち位置を取るべきなのか模索している」と述べた。
<文化を守る>
タレン・エナジーはモントゥール郡の土地約1300エーカーを農業用地から工業用地へ区画変更するよう求めている。これは12―15棟の建物を含む大規模なデータセンター建設に向けた第一歩だ。。計画地は、同社が運転する出力1528メガワットの天然ガス火力発電所の近くにあり、周囲には農地が広がり、キリスト教の一派アーミッシュの人びとが頻繁に通る未舗装の道路が走っている。
タレン・エナジーによると、この事業計画で大豆、トウモロコシ、家畜を支える350エーカーの農地が失われるという。住民はこの土地を失えば地域の食料と飼料向けに大豆を加工する近隣の工場を含めた地域の農村経済を弱体化させるのではないかと心配する。
住民はトランプ氏を非難するよりもむしろ、データセンター建設ブームを進める大企業の責任を追及している。住民はこうした企業が農地を買い占め、農村の景観を変え、地元住民に高い公共料金の負担を押し付けると主張する。
「この地域に関わらないでほしい。連邦政府の介入がなければこんな議論はしていないだろうに」とトランプ支持者で39歳のクレイグ・ハイ氏は語った。「両方の政党がデータセンターの建設を推進し、水利用の許可やその他の許認可権全てを規制緩和している」
<ペンシルベニア州の急成長>
ペンシルベニア州は豊富で安定した電力供給によって、データセンターの建設計画が集中する場所となっており、アマゾン・ドット・コム、アルファベット傘下のグーグル、マイクロソフトなどから数百億ドル規模の投資を呼び込んでいる。米電力大手コンステレーション・エナジーは老朽化したスリーマイル島原子力発電所について、新しいサーバーファームに電力供給するために利用することさえ検討している。
しかし、住民はその負担を自分たちが背負うことになるのではないかと心配する。
送電網運営者PJMインターコネクションのデータによると、ペンシルベニア州の公益事業会社はデータセンターの電力需要が今後10年で急増し、数百万戸の住宅に新たに電力を供給できるほどになるという。
連邦政府のデータによると、ペンシルベニア州の電気料金は過去1年間で約15%上昇し、全国平均のほぼ2倍だとしている。
電気料金の急騰は既に地域の送電網に波及している。公益事業会社はインフラ需要の増加を賄うために料金を引き上げ始めた。アナリストは顧客に対する請求額が今後数年間で大幅に上昇する可能性があると警告する。
多くの家庭でその負担が既に目に見える形で現れている。進歩的な研究機関センチュリー財団によると、未払いの公共料金残高が22年以降、インフレをはるかに上回るペースで増加しており、ペンシルベニア州は一般家庭のエネルギー負債が最も高い州の一つとなっている。
こうした家計への圧力は、すでに一部の地域で政治にも影響を及ぼしている。アリシア・ジョンソン氏は、電気料金の高騰と歯止めのないデータセンター増設への不満に焦点を当てて選挙運動を展開し、今年初め、ジョージア州の公益事業委員会で07年以来わずか2人目となる民主党員の委員に選ばれた。彼女は、自身が訴えたこうした争点が、来年の米中間選挙に向けてペンシルベニア州などが直面する状況を先取りしていると語る。
ジョンソン氏は「人々は規制なしのデータセンターを望んでいないし、その費用を自分たちが負担することも望んでいない。これは26年に全国的な物価高騰に関する議論の一部となるだろう」
環境保護団体フード・アンド・ウォーター・ウォッチの活動家ジニー・マルシルカーズレイク氏は、モントゥール郡のような場所でデータセンターに対する反対運動を数カ月にわたり組織してきた。彼女は来年、政治的な大変革が起こるだろうと予測する。
「コミュニティは赤でも青でも、反対で一致している」と彼女は語った。ここでいう「赤」は共和党が優勢な地域、「青」は民主党が優勢な地域を指す。「私たちがこれほど分断されている時代に、この問題は人々を結束させている」
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