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アングル:したたかなネタニヤフ氏、「最後は思い通り」にトランプ氏動かす

2025年06月23日(月)14時49分

 イスラエルのネタニヤフ首相(写真左)は30年以上にわたり、米大統領としばしば激しく対立してきた。彼は米国の指導者を相手に説教し、反抗し、公私にわたって当惑させてきた。右はトランプ米大統領。4月7日、ホワイトハウスで撮影(2025年 ロイター/Kevin Mohatt)

Crispian Balmer

[エルサレム 22日 ロイター] - 約1カ月前、イスラエルのネタニヤフ首相は窮地に立ったかに見えた。トランプ米大統領は中東歴訪で昔からの同盟国であるはずのイスラエルを素通りし、シリアへの制裁を解除した。さらには、イランの核問題で合意締結の見込みまで示したのだ。最大野党を率いるヤイル・ラピド氏は、ネタニヤフ氏が米国との関係を破壊していると非難した。

しかし米国は現地時間22日未明、イランの主要な核施設を空爆した。イランの核兵器開発を阻止するため、全軍事力を投入するよう米政府を説得するという数十年越しのネタニヤフ氏の願いがかなったのだ。歴代の米大統領との関係がいかに険悪であろうと、最終的には望むものを手に入れる、というネタニヤフ氏の真骨頂だ。

ネタニヤフ氏は30年以上にわたり、米大統領としばしば激しく対立してきた。彼は米国の指導者を相手に説教し、反抗し、公私にわたって当惑させてきた。それでも民主党政権であれ共和党政権であれ、米国の軍事援助はイスラエルにほぼ絶え間なく流れ込み、米国はイスラエルの主要な武器供給国であり外交の盾であり続けてきた。

ある国連高官はエルサレムで「ネタニヤフ氏はおそらく、常に乗り切れると考えているのだろう」と語った。

<米支援は当然>

自身の政策課題を推進するネタニヤフ氏のしたたかさ、米国の圧力にも耐える粘り強さや強靭性は筋金入りだ。

1996年、初めて首相に就任してからわずか1カ月後、同氏はワシントンを訪問し、会談したクリントン大統領(当時)の神経を逆なでした。

「彼は一体自分を何様だと思っているのか。一体どちらが超大国なんだ」。会談後、クリントン氏は側近らに尋ねたと当時の米外交官は振り返る。

ネタニヤフ氏は99年に退陣した。首相に復帰したのは10年後。当時の米大統領はクリントン氏と同じ民主党のオバマ氏だった。

ネタニヤフ氏は、オバマ氏と公然とぶつかった。当初は、ヨルダン川西岸でのイスラエル人入植地問題などが懸案だったが、イランと核問題を巡る交渉に入ると事態はさらに悪化した。同氏は15年に米議会で演説し、イラン核合意(JCPOA)に向けた動きを非難した。オバマ氏はこれに激怒したとされる。

このように米大統領の怒りを買っても、米国の軍事支援は止まらなかった。米議会でイラン核合意を激しく非難した翌年、オバマ政権は10年間で380億ドルという米国史上最大の対イスラエル軍事支援パッケージを発表した。

政治アナリストは、ネタニヤフ氏が米国の支援を当然のことと捉えていると指摘する。いかにホワイトハウスを敵に回そうとも、福音派キリスト教徒とユダヤ系コミュニティーからの支持が後ろ盾だと確信しているという。

<トランプ氏を動かす>

23年10月、イスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けると、バイデン大統領(民主党)はイスラエルとの連帯を示すため同国を訪問した。対イスラエル軍事支援も承認した。

しかし、パレスチナ自治区ガザでイスラエルの攻撃による民間人の犠牲が急増し、人道危機が懸念されるようになるに伴い、ネタニヤフ氏とバイデン氏の関係は急速に悪化した。バイデン氏は、イスラエルへの一部兵器の提供を凍結し、暴力的なイスラエル人入植者に制裁を科した。

24年11月の米大統領選挙でトランプ氏が返り咲きを果たしたことは、ネタニヤフ氏にとって朗報だった。しかし「これでうまく事が運ぶ」という同氏のもくろみは外れる。

前任者のバイデン氏と同様、トランプ氏もガザでの長引く紛争に不満を持っていた。今年4月、訪米したネタニヤフ氏と会談したトランプ氏は、イランと直接交渉を開始すると述べた。

トランプ氏が自らを和平推進者と称する一方で、ネタニヤフ氏は一貫して軍事介入を主張した。6月13日未明、イスラエルはイランへの空爆を開始するとともに、米国に参戦を求めた。攻撃計画について、ネタニヤフ氏がトランプ政権に「イエス」と言わせたかどうかは定かでないが、少なくとも「ノー」ではなかったと両国の高官筋は述べている。

米東部時間21日、トランプ氏はイランの核施設3カ所に対して攻撃を実施し「大成功」だったと表明。「イランの主要な核濃縮施設は完全かつ全面的に消滅した」と述べた。

ネタニヤフ氏は、「おめでとう、トランプ大統領。イランの核施設を、米国の凄まじく正しい力で攻撃するというあなたの大胆な決断は、歴史を変えるだろう。歴史は、トランプ大統領が世界で最も危険な政権に世界で最も危険な武器を持たせないために行動したことを記録するだろう」と述べた。

それはトランプ氏の決断を称えるとともに、「最後は自分の思い通りにする」を果たしたという意味も込められていると言える。

ロイター
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