アングル:イスラエル格下げ、今後も続く公算大 紛争リスク拡大で
米格付け会社ムーディーズが先月27日、イスラエルの格付けを「A2」から「Baa1」に2段階引き下げたことについて、アナリストらはこの格下げが今後も続くとの見方を示している。イスラエルのテルアビブで2月撮影(2024年 ロイター/Dylan Martinez)
Steven Scheer
[エルサレム 1日 ロイター] - 米格付け会社ムーディーズが先月27日、イスラエルの格付けを「A2」から「Baa1」に2段階引き下げたことについて、アナリストらはこの格下げが今後も続くとの見方を示している。地政学的リスクの一段の高まりが背景にある。
イスラム組織ハマスおよびレバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラとの衝突激化はイスラエルの歳出拡大に拍車をかけており、過去の紛争時ほど経済が迅速に回復しないとの公算が大きい。
こうした情勢を背景に、ムーディ―ズは、現在高まっているヒズボラとの緊張が全面的な紛争に発展した場合、格付けをさらに複数段階引き下げる可能性を指摘している。
今回の引き下げは、紛争が激化する中で同国の経済見通しが不透明であることを反映していると言えるが、イスラエル政府関係者などからは反発する声も上がっている。
ハポアリム銀行のエコノミスト、ビクター・バハール氏は「Baa1は通常、イスラエルほど財政が健全でなく発展していない国に対する格付けだ」と指摘。
さらに格付けが引き下げられれば、イスラエルは投資適格級の格付けを失うことになる。イスラエルの元銀行規制当局者ヤイール・アビダン氏は「現在の格付けを維持するには、解決しなければならない問題がたくさんある」との認識を示した。
<疑問視される迅速な回復可能性>
フィッチはイスラエル政府が国境防衛強化に伴い、軍事費を戦闘開始前の水準から対国内総生産(GDP)比1.5%近くに恒久的に増加させると予想。S&Pグローバルも国防費の増加でイスラエルの財政赤字が拡大するとみている。
ムーディーズも、紛争が長期化し解決の見通しが立たないことを背景に、経済の迅速な回復を疑問視していると述べた。
イスラエル銀行(中央銀行)元総裁のカルニット・フラッグ氏は「これは、リスクがこれまでの想定以前に高まっており、状況が急速に悪化していると捉えられていることを強く示唆している。ムーディーズが財政見通しに関してイスラエル政府に信頼を置いていないことは明らかだ」と指摘した。
一方、スモトリッチ財務相を含むイスラエルの政治家らは、格付け会社フィッチとS&Pグローバルに続くムーディーズによる格下げは、イスラエル経済の強さを過小評価しているとの見方を示す。
ニューメッド・エナジーの最高経営責任者(CEO)ヨシ・アブ氏も、ムーディーズの決定はイスラエルの回復力と精神に対する理解の欠如を反映した「大きな間違い」だとの見方を示している。
イスラエルの会計検査院長ヤリ・ローテンバーグ氏は、複数の紛争が経済的代償を伴うことは明らかだが、ムーディーズによる今回の格下げに「正当性はない」と指摘する。
しかし、イスラエルの経済成長は明らかに打撃を受けており、第2・四半期のGDP成長率は年率で0.7%に減速している。
ライヒマン大学アハロン経済政策研究所は、地上戦を含むヒズボラとの全面衝突により、今年の経済成長は3.1%縮小し、財政赤字はGDP比で9.2%に拡大すると予測している。
イスラエルのスモトリッチ財務相は先月、戦費調達のため、25年に350億シェケルの広範な歳出削減のほか、税率、給付金、賃金の凍結を計画していることを発表している。