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情報BOX:いまだ謎多い撃墜気球、現時点で判明している事実
米軍戦闘機がサウスカロライナ州沖で撃墜した気球について、米政府は中国の偵察気球だとみなし、中国側は民間の気象調査用が偶然に迷い込んだだけだと主張しているが、本当は何だったのかを含めてさまざまな疑問が生まれている。写真はサウスカロライナ州サーフサイド・ビーチで4日撮影(2023年 ロイター/Randall Hill)
[上海 8日 ロイター] - 米軍戦闘機がサウスカロライナ州沖で撃墜した気球について、米政府は中国の偵察気球だとみなし、中国側は民間の気象調査用が偶然に迷い込んだだけだと主張しているが、本当は何だったのかを含めてさまざまな疑問が生まれている。
米国が回収した残骸の分析でさらに情報が出てくる公算は大きい。米中の外交論争を引き起こしたこの気球について、現時点で分かっていることと分からないことは次の通り。
◎大きさ
北米航空宇宙防衛司令部のバンハーク司令官は、本体の最も高い部分で200フィート(61メートル)あり、重量が数千ポンドを超える小型ジェット機規模の偵察装置を搭載していたと明らかにした。地上から約6万フィート(1万8300メートル)と、民間航空機の約2倍の高度で飛行。米政府はある程度の時間追跡を続けており、少なくとも7日は米国の領空を飛んでいたという。
◎中国側の言い分
中国外務省は、気球の主な目的は気象調査で自律制御能力は限られると述べ、天候の影響を受けて予想外に米国領空に入ったと主張している。また気球の持ち主がどの企業ないし団体かの情報は持ち合わせていないとも説明した。
◎気象観測気球とは
世界中に気象観測気球を製造・販売している米ケイモントは、今回の気球について、大きさや載貨重量、飛行時間のいずれも通常の気象観測気球の性能を超えていたとの見方を示した。
ケイモントのアカウントマネジャー、ジェス・ゲッフェン氏はロイターに「通常の気象予報用気球は200グラムほどのラジオゾンデ(データを地上に無線送信する装置)を積み、打ち上げ時の直径は1.4メートルで6メートル前後になると破裂する。飛行時間は90分から120分だ」と語った。
さらに「より大きな気球に高高度の写真や映像を撮影する機器が積まれるかもしれないが、それでも今回の気球の3分の1の規模にもならないだろう」と付け加えた。
中国では、気象観測気球の製造は国有の中国化工の子会社、株洲橡胶研究設計院が主に手掛け、気象当局が使用する高高度観測気球の75%を生産している。
より規模が小さな広州市双一気象器材有限公司の会長はロイターに、同社や株洲橡胶研究設計院は、今回米国領空を横断した気球と同じ高度を飛行できる気球を製造できると語りつつも、この気球は自身の会社が生産したものではないとくぎを刺した。
株洲橡胶研究設計院を取材したところ、電話応対した従業員は、今回の件は会社とは無関係だとだけ話した。
◎気球の正体
ケイモントは、撃墜された気球はラテックスではなくプラスチック製の公算が大きいとみている。回収された残骸からも今のところそれが裏打ちされている。
見かけや大きさから判断すると、これは米企業エアロスター製の気球に似通っており、実際に同社の気球がメンフィス上空を飛行していた際には中国のものと間違われた。
エアロスターは、米航空宇宙局(NASA)などに成層圏を飛行する気球を納入する企業で、同社の気球は200日を超える飛行時間と数百ポンドの重量物を積めるポリエチレン製。インターネットを過疎地域に届けるためにこうした気球を使用するグーグルとも取引関係がある。
このほか米宇宙旅行企業ワールド・ビューや、フランスのCNIMエアスペースも成層圏飛行気球を開発している。
中国にはこれらに相当する民間企業は存在しないが、中国科学院航天信息研究所と光電研究所は、成層圏飛行気球の大がかりな研究に従事し、何度か打ち上げを公表した。
2017年には光電研究所が、内モンゴル自治区で開発した「高圧」気球の打ち上げ成功を明らかにしている。体積は7000立方メートルで、150キロの重量物を積めるとされた。
昨年9月には、中国科学院航天信息研究所が、宇宙に近い高高度大気圏関連技術開発の一環として高度30キロに達し、1.2トンの積載能力を持つ気球を打ち上げた。
同研究所は特に成層圏飛行気球の技術に関心が高く、微信(ウィーチャット)のアカウントにエアロスターの記事を複数回投稿した。
ロイターが6日伝えたところでは、中国軍の研究機関は最近、公表されている論文で、気球と飛行船の開発を一層推進し、幅広い作戦に投入すべきだと主張しているもようだ。
専門家は、中国が保有する軍事用気球の総数はまだ把握できていない。ただ複数の米政府高官は、2018年以降で日本やインド、ベトナム、台湾、フィリピンなどを標的に気球が使われた数十の作戦に言及している。