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安倍氏国葬に4300人、割れる賛否 首相は弔問外交アピール

2022年09月27日(火)19時39分

9月27日 安倍晋三元首相の国葬が27日午後、東京・千代田区の日本武道館で始まった。写真は26日に武道館で行われた国葬のリハーサルで撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 27日 ロイター] - 政府は27日午後、7月に銃弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬を行った。国内外からおよそ4300人が参列し、第2次安倍政権下で外相を務めた岸田文雄首相、官房長官を務めた菅義偉前首相らが弔辞を読んだ。銃撃事件が与党・自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係を明るみにし、国葬への反対が強まり支持率が急落する中、岸田首相は「弔問外交」をアピールしたい考えで、この日はオーストラリアやインドの首相らと立て続けに会談した。

<「長さより達成した事績で記憶」>

国葬は午後2時すぎから東京・千代田区の日本武道館で行われた。葬儀委員長の岸田首相は弔辞の中で、安倍氏が官房長官時代から取り組んだ北朝鮮による日本人拉致問題に触れ、被害者が家族のもとに一刻も早く帰れるよう全力を尽くすと遺影に呼びかけた。さらに戦後最長となった在任期間に言及し、「歴史はその長さよりも、達成した事績によりあなたを記憶する」と語った。

政府が首相経験者の国葬を行うのは、戦後では吉田茂氏以来2例目。法律に国葬の規定はないが、岸田首相は安倍氏の連続在任期間が戦後最長だったことなどから開催を決めた。

海外からはインドのモディ首相やオーストラリアのアルバニージー首相、ハリス米副大統領など、218の国と地域・機関の約700人の要人が出席した。うち、48人は元職を含め首脳級。中国からは全国政治協商会議の万鋼副主席が、ロシアからはシュビトコイ国際文化協力担当大統領特別代表が参加した。国内からは約3600人が参列した。

官房長官として安倍政権を支えた菅前首相は友人代表として弔辞を読み、ふと1人になると、首相官邸でともに過ごした日々の様子がまざまざとよみがえってくると振り返った。「安倍氏というリーダーがいたからこそ、特定秘密保護法や一連の平和安全法制など難しかった法案をすべて成立させることができた」と述べた。

同日午前から日本武道館近くで行われた一般献花には、多くの人が列を作った。予定の午前10時より約30分早く献花が始まると、集まった人たちが次々と花をささげた。テントの下に安倍氏の写真と台が設置され、台湾旗を持った男性の姿もみられた。東京都の60代主婦は「早めに家を出たつもりだったけど、たくさんの人が並んでいた。賛否両論で反対の方も結構多いと聞いているが、やはり国葬になると多くの人が手を合わせに来るのだな感じた」と話した。

<臨時国会で説明責任>

安倍元首相は7月8日、参議院選挙の応援に駆けつけた奈良市で銃撃され、死亡した。逮捕された容疑者が動機として旧統一教会と母親の関係を挙げ、それをきっかけに安倍氏をはじめ自民党の議員が協会と接点があったことが次々と表面化。国葬反対の世論が強まるとともに、岸田内閣の支持率も低下した。

法政大学の白鳥浩教授(現代政治分析)は、臨時国会で2つの説明責任を果たすことが短期的な岸田政権の課題だと指摘。「1つは国葬の費用、2つめは国葬の法的な手続き上の位置づけ。自民党が統一教会と関係を絶つとは具体的に何をすることかについても説明が必要だ」と語る。

報道各社が9月中旬に実施した世論調査によると、政権支持率は軒並み急落。毎日新聞の調査では36%から29%に低下し、初めて30%を割り込んだ。日本経済新聞は14ポイント減の43%、共同通通信は13.9ポイント減の40.2%だった。最も厳しい結果となった毎日新聞の調査によると、旧統一教会を巡る対応を評価しないは72%、国葬に反対は62%だった。

国葬前日の26日に日本武道館近くにいた38歳の女性会社員は「(国葬は)すべきではないと思う。税金で行うということには疑問がある」と語った。一方、28歳の男性は「あす実家に帰るので、長年総理として務めた安倍晋三さんを追悼したいと思ってきょう来た」と話した。

<集団的自衛権で国論を二分>

安倍氏は2006年9月から1年間首相を務め、体調不良を理由に退任。12年12月に再登板し、20年8月に体調不良で辞めるまで歴代最長の7年8カ月在任した。

第2次安倍政権は看板政策「アベノミクス」を掲げてデフレからの脱却を目指し、日銀の大規模緩和で円安と株高を演出した。国論を二分する中で集団的自衛権の行使を可能にしたほか、「地球儀を俯瞰する外交」を掲げ、米国以外にもインドやオーストラリア、英国などとの関係強化に動いた。

国葬は約16億6000万円という費用も批判されている。岸田首相は「弔問外交」という成果を強調する考えで、26日から28日にかけて来日した要人と30以上の個別会談をこなす。

26日午後には米ハリス副大統領と会い、台湾情勢や日本の防衛力強化などを協議。27日午前にはオーストラリアのアルバニージー首相やインドのモディ首相と会談し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて連携することを確認した。

(杉山健太郎、竹本能文 編集:石田仁志、久保信博)

*動画を付けて再送します。

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