ニュース速報

ワールド

アングル:石油増産の裏にサウジの外交力、米ロの間を綱渡り

2022年07月03日(日)07時51分

 6月30日、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国でつくる「OPECプラス」が6月2日の会合で追加増産を決めた裏には、サウジアラビアによる「陰の外交努力」があった。写真はOPECのロゴが掲げられたビル。ウィーンで2015年8月撮影(2022年 ロイター/Heinz-Peter Bader)

[ロンドン/ドバイ 30日 ロイター] - 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国でつくる「OPECプラス」が6月2日の会合で追加増産を決めた裏には、サウジアラビアによる「陰の外交努力」があった。米国の要求を受けて増産の根回しを進めていたサウジが、ロシアの同意を確保するため積極的な働きかけをしていたのだ。協議の事情に詳しい2人の関係者がロイターに明らかにした。

こうしたサウジの動きは、同国が米国との関係改善を模索しつつ、長年にわたって築いてきた石油政策を巡るロシアとの協調も壊さない、という難しいかじ取りを迫られていることを物語っている。

関係者の1人はOPECプラスの増産について「米国が主張し、その後サウジがロシアの意向を確認する必要が生じて、結局問題なしとなったようだ」と説明。2人目の関係者もロイターに、サウジはウクライナ侵攻に伴って欧米から厳しい制裁を科されていたロシアに対して慎重に相談を持ちかけたと述べた。

7月13─16日にはバイデン米大統領が中東を外遊し、就任以降初めてサウジを訪れる予定だ。バイデン氏は与党・民主党内に背中をつつかれ、OPECプラスからロシアを排除するようサウジに求めろと迫られている。

だがそれはサウジにとって、ロシアを生産協定に仲間入りさせるために払ってきた多年の努力が水泡に帰すことになる。OPECプラスが発足したのは2016年だが、サウジはそのずっと前からロシアと協力体制を構築する取り組みを続けてきた。

あるOPECプラス代表はロイターに「ロシアをとどめることが非常に大事だ」と語る。複数の専門家も、サウジは何か政治的な理由があるわけでなく、純粋に石油市場における影響力を高めるという意味でロシアがOPECプラスに残るのを望んでいるとの見方を示した。

ロシアの考えに通じている関係者は、欧米がロシアの孤立を願っている時期にOPECプラスの一員であることはロシアにとってプラスに働いていると指摘。「現在の環境においてサウジは原油高を享受し、ロシアはOPECプラスからの確実な支援が必要だ。市場崩壊は誰の利益にもならない」と付け加えた。

<大事なロシア取り込み>

バイデン氏はサウジ訪問に際して、事実上の政治指導者であるムハンマド皇太子と会談する見通し。バイデン氏とムハンマド皇太子の間には、イエメン内戦やサウジの反体制記者殺害事件などを巡ってあつれきが生まれていた。

一方、先のロシア側関係者によると、ムハンマド皇太子とプーチン大統領は「より緊密」な間柄だ。

またサウジのアブドルアジズ・エネルギー相は6月にロシアで開催された国際経済フォーラムで、ロシアとサウジの関係は「リヤドの天気のように良好だ」と発言。ロシアのノバク・エネルギー相も、ロシアは2022年より先までOPECプラスと協力できると強調した。

サウジとロシアが正式に生産協定で連携したのは2016年のOPECプラス発足以降だが、ロシアをOPEC側に取り込もうとする動きは2001年から始まっている。

そのOPECプラスは2020年に合意した減産分を今年8月までに完全に巻き戻す計画だ。ただしロシアは欧米の制裁によって生産量が減り続けており、今後のOPECプラスとしての協力体制がどうなるか疑問も浮上してきた。

別のロシア関係者は、11月の米議会中間選挙前にOPECプラス内部の「力学」が変化する公算は小さいとみている。

古くからのOPEC専門家であるゲーリー・ロス氏は「20年余りも石油市場の管理運営にロシアを引き入れる取り組みを続けてきたサウジが、この重要な関係を解消しようとはしていない」と断言した。

(Alex Lawler記者、Maha El Dahan記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中