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アングル:インドの若者が生保契約に殺到、コロナ感染死急増で
6月16日、インドの経済都市・ムンバイにある広報業務の代理店で経営陣に名を連ねるビバリー・コウティンホさん(24)は、他の20代の若者と同じように生命保険への加入を先延ばししてきた。写真は4月21日、ニューデリーの火葬場で親族を見送る人々(2021年 ロイター/Adnan Abidi)
[ベンガルール 16日 ロイター] - インドの経済都市・ムンバイにある広報業務の代理店で経営陣に名を連ねるビバリー・コウティンホさん(24)は、他の20代の若者と同じように生命保険への加入を先延ばししてきた。しかし、インドで新型コロナウイルスの感染者数と死者数が急増したことで、自分の死を直視するようになり、加入を決めた。
コウティンホさんは「同じ年ごろの人たちが死ぬのを見て、即座に生命保険に入った。私に何かあった時に、家族がお金のために奔走するような状況になってほしくない」と話す。
公式統計によると、インドの新型コロナの死者数は累計38万人で、米国、ブラジルに次いで世界で3番目に多い。だが、専門家によると、インドは検査数が少ないため死者数が大幅に少なく推計されており、実際には恐らく世界で最も多いという。
インド最大のオンライン保険情報会社・ポリシーバザールによると、コロナ感染第2波が最も激しかった今年4─5月に25─35歳の年齢層による定期保険の加入数は、その前の3カ月の合計と比べて30%増加した。
定期保険は掛け捨てだが、保険料が安く、契約期間中に加入者が死亡した場合、家族に保険料が支払われることから、インドでは人気が高い。医療費を負担する契約内容など他の種類の保険も需要が高まっている。
オンライン保険情報会社・インシュアランスデコのウェブサイトを通じた定期保険の購入者は、今年5月に3月と比べて70%増えた。
保険会社は業務上の秘密だとして保険の販売実績を公表していないが、5000件から1万件弱との見方が多い。
HDFCライフ・インシュアランスのニラジ・シャー最高財務責任者(CFO)は「新型コロナの流行で、お金の面で身を守る必要性や、今の保険ではカバーの範囲が足りないという意識が高まっている」と述べた。
HDFCライフ・インシュアランスによると、インドが感染第1波に見舞われた1年3カ月前ごろから35歳以下の年齢層の保険需要が高まっている。
複数の業界幹部によると、保険プランの問い合わせは、感染第2波の勢いが鈍っても急増しており、これはおそらくインドでワクチン接種の出足が鈍く、感染第3波が発生する可能性が高いと見られているためだという。
<行動変容>
一方、株式投資家はコロナ禍で生命保険株を買うのが良い投資かどうか確信を持っていないようだ。インド株式市場の指標となるNSE指数(ナショナル証券取引所に上場する50銘柄で構成)は年初来の上昇率が13.5%。
ところが、HDFCライフ・インシュアランス株の上昇率は2%余りで、SBIライフ・インシュアランスは10%程度、ICICIプルデンシャル・ライフ・インシュアランスは18%近くとばらつきがある。
SMCグローバル・セキュリティーズの調査担当アシスタント・バイスプレジデント、サウラブ・ジャイン氏は「長期的には保険会社への投資は理にかなっている。保険への意識が高まっているからだ」と述べた。ただ、株価が割高であることや、感染の第1波と第2波で保険金の支払い請求が増加している点は、懸念材料だと付け加えた。
生命保険市場の成長について確とした数字はないが、業界アナリストによると、これまで保険のカバーが手薄だったインドで中流層の行動が変化しつつあるという。
インシュアランスデコの創業者兼最高経営責任者(CEO)のアンキト・アグラワル氏は「保険は、今では中流層にとって衣服、食品、家に次ぐ4番目の柱になっている」と述べた。
インドの保険監督当局、保険規制開発庁の最新の年次統計によると、国民の生命保険加入率は2019年が2.82%で、2001年は2.15%だった。
これは19年の世界平均の3.35%と比べると依然としてかなり低いが、インドは人口13億5000万人の大部分が保険のために使える可処分所得を持たず、コロナ禍による景気悪化で状況は一段と厳しくなっている。
BNPパリバ・インドのシニア・ファイナンシャル・アナリスト、アブニーシ・スクヒジャ氏は「保険加入を考えていた人々が、今それを行動に移しつつある」と話した。
(Chris Thomas記者、Sethuraman N R記者)