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情報BOX:米民主党がインフラ計画案可決で再行使狙う「財政調整措置」

2021年06月17日(木)14時03分

 6月16日、米与党・民主党は、バイデン大統領が提案している野心的な大型インフラ投資計画の議会可決を目指すために「財政調整措置(リコンシリエーション)」を使うことを検討している。米首都ワシントンで2020年12月撮影(2021年 ロイター/Cheriss May)

[ワシントン 16日 ロイター] - 米与党・民主党は、バイデン大統領が提案している野心的な大型インフラ投資計画の議会可決を目指すために「財政調整措置(リコンシリエーション)」を使うことを検討している。上院の民主党と野党・共和党の議席数が50ずつで拮抗している上に、この提案について共和党側の支持が得られていないためだ。

<財政調整措置とは>

調整(reconciliation)と聞くと、意見の食い違いをすり合わせる印象を持つが、実際はその正反対。上院の多数派が、優先順位が高いと見なす法案を強引に通過させるための仕組みだ。

米上院では通常の法案審議において長時間の演説などで採決の遅延・阻止を狙う議事妨害(フィリバスター)が認められており、フィリバスター打ち切りを確保するには60票が必要になる。つまり現在50議席の民主党は、少なくとも共和党議員10人を味方にしなければならない。ところが財政調整措置を用いれば、単純過半数での採決ができる。つまり民主党は50人と議長のハリス副大統領の1票で事足りる。

<導入時期と理由>

財政調整措置は、1974年議会予算法の一部として導入された。圧倒的過半数の賛成が得られなくても、当初予算案にのっとった歳出ないし歳入の計画を議会が可決できるようにするのが狙いだった。ジョージ・ワシントン大学のサラ・バインダー教授(政治学)によると、これはフィリバスター阻止に60票が必要というルールの例外措置として1970年代に議会で成立した規定の一つ。そのほかの例外規定として、通商問題で大統領に一括交渉権を付与する「ファストトラック手続き」や、大統領の海外派兵を制限する措置などがある。

<実際の使われ方>

財政調整措置は、大統領が目玉政策を法制化する目的で好んで用いられ、1980年以降では20回余り使われた。民主党政権ではビル・クリントン氏が増税、バラク・オバマ氏は医療保険改革法(オバマケア)の実現にそれぞれ行使し、共和党政権でもジョージ・W・ブッシュ(子)氏とドナルド・トランプ氏が減税に利用した。

バイデン氏も既に今年3月、1兆9000億ドルの追加コロナ経済対策法案の可決で財政調整措置を使っている。

ただ議会多数派がいつでも利用できるわけではない。財政調整措置の適用条件に当てはまるのは、予算面に直接的な影響がある法案に限られる。またこれまでは一般に1年に1回だけしか使われてこなかった。現在の民主党内には利用頻度を高められるようにしようとする動きもあったが、上院事務方の議事運営専門家が最近出した議事指針はそうした考え方をくじいたもようだ。

もっともバイデン政権下の民主党は、今年もう1回は財政調整措置を使うことが「できる」。前回の行使は2021会計年度に関するもので、今は22年度予算の策定準備に切り替わっているからだ。

<具体的手続き>

上下各院はまず、各委員会向けの「財政調整指示」を伴う予算決議を可決。これらの指示を受けた各委員会はそれぞれに財政調整で成立する法案を作り、最終的に1つの包括的な法案にまとめられる。

上院の議事運営専門家は、財政事項ではなく規制上の事柄に見えるような項目については、この法案から除外することができる。実際今年2月には、連邦最低時給を15ドルにする提案について、議事運営専門家が財政調整措置を適用する追加コロナ経済対策法案から外すべきだとの考えを示した。議事運営専門家の判断は一般的に、その時々の上院の多数派に順守され、覆すには60票が必要になる。

一本化された財政調整法案が上院本会議で最終採決される前には、「Vote-a-Rama」と呼ばれる手続きが待っている。これは修正案の審議を、与野党が打ち切りに合意するまでいくつでも延々と続けられるルールだ。

<一致団結が必要>

最後のところでは、財政調整法案の成立には多数派の団結が必要になる。現在の民主党の議席状況では、同党上院議員の全員がまとまって賛成に回る必要がある。

今年3月の追加経済対策法案を巡っては、失業保険給付の臨時上乗せ案の修正を同党中道派のマンチン上院議員が要求し、要求が通るまで審議が何時間も滞る場面があった。

新たな財政調整法案の提出が予想される中で、マンチン氏の動向が再び衆目の関心を集めている。これに関しては、同氏は今のところ「われわれはまだあらゆることを検討しているところだ」と述べ、立場をあいまいなままにしている。

ロイター
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