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アングル:米海兵隊「最後の壁」打ち破る女性新兵

2021年05月06日(木)17時59分

写真は21日、キャンプ・ペンドルトンで「クルーシブル」と呼ばれるテストに参加する海兵隊の女性新兵ら(2021年 ロイター/Mike Blake)

Daniel Trotta

[キャンプ・ペンドルトン(カリフォルニア州) 26日 ロイター] - 女性・男性双方を含む米海兵隊の新兵たちが、演習用に作られた模擬村落を巡回している。そこへ突然、機関銃の銃声が響き、爆発が起きる。

土煙が収まると、男性兵士を肩に担いだ女性、あるいは逆に女性兵士を担いだ男性が姿を現す。戦場から負傷者を救出する訓練だ。別の者は負傷した戦友を模したダミー人形を載せた担架を運び、壁の向こうに託す。それからケージ内での他の新兵との格闘訓練、そして障害物コースに向かう。

これらはすべて「クルーシブル(試練)」と呼ばれる、体力・精神力を試す54時間のテストの一環である。新兵はこのテストに合格しなければ、米海兵隊の一員にはなれない。

今回、米海兵隊サンディエゴ新兵訓練所出身の女性たちが初めて「クルーシブル」に合格し、サンディエゴから北に約65キロ離れた広大で起伏に富むキャンプ・ペンドルトン海兵隊基地で、鷲と地球、錨をあしらった海兵隊の徽章を獲得した。

これまで、女性の新兵・訓練教官は、サウスカロライナ州パリス・アイランドにある別の海兵隊新兵訓練所に限られていた。ここでは年間3400人の女性が訓練過程を修了する。米国の東西両岸で誕生する新たな海兵隊員総数のうち約10%に当たる。

西海岸側で初めて53人の新兵が海兵隊員になったことは、米軍の中で女性の受け入れに最も強く抵抗していた部門における、最後のジェンダー障壁の1つが破られたことになる。

「成功を求める一種のプレッシャーは確かにあった。私たちには大きな期待がかかっていた」と語るのは、ミネアポリス出身のアニカ・ターナネンさん(19)。彼女を含む60人の女性が、1月からサンディエゴでの新兵訓練を開始し、そのうち7人が負傷のため脱落した。

海兵隊は女性の採用という点では他の米軍部門に比べて一貫して後れをとっており、2020年の米会計検査院の報告書によれば、2018年の時点で、陸軍・海軍・空軍・海兵隊の4軍を合わせた全体での女性比率が16.5%であるのに対して、海兵隊単独では8.6%と約半分にとどまっている。

米議会調査局(CRS)の報告書によれば、2015年12月、当時のカーター国防長官があらゆる戦闘任務を女性に開放するよう命令したとき、4軍のうち海兵隊だけが、歩兵、機関銃手、火力支援、偵察といった領域で例外を認めるよう要請した。この例外申請は却下されている。

キャンプ・ペンドルトンで新たに海兵隊員となった1人、エミリー・ザムディオさん(19)は、一等兵として歩兵部隊に入隊する。兵種はライフル銃兵、戦闘任務である。

カリフォルニア州マデラ出身のザムディオさんは、「もっと多くの女性が男性の職種に進出していく刺激になればと願っている」と語る。「体格に関わらず、女性にもできるということを、もっと多くの女性に知ってほしい」

1991年の湾岸戦争や、今世紀に入ってからのアフガニスタン、イラクでの戦争には、何万人もの米国女性が参加した。直接の戦闘任務には配属されなくても、前線が移動する中で戦闘を経験し、戦死した女性もいる。

<行軍、そして喚声>

海兵隊の訓練に「クルーシブル」が登場したのは1990年代以降である。海兵隊では、キャリアを通じて年齢・性別に応じたフィットネス基準を設けているが、「クルーシブル」という儀式では、新兵全員が同一のテストに挑戦する。

パリス・アイランド訓練所では、かつて女性新兵は別に訓練を受けていたが、2019年からは男性と統合された。

西海岸側では、サンディエゴ訓練所の新兵は「クルーシブル」の締めくくりとしてキャンプ・ペンドルトンに移動する。史上初めて女性だけで編成される第3241小隊は、男性だけで編成される他の5小隊とともにリマ中隊にまとめられ、ひと晩3時間の睡眠という同一条件で野営する。

男性と同様、女性もライフルと50ポンド(23キロ)の背嚢を背負って9マイル(15キロ)の行軍をこなし、嗄れた声で喚声をあげつつ最後の丘に突撃し、太平洋を見下ろす頂点に達する。そこで各小隊の訓練教官は、厳かな通過儀礼として海兵隊の徽章を新兵たちに授ける。

女性だけの小隊の主任訓練教官を務めるアンバー・スタロシック2等軍曹は、新たに海兵隊員となった部下たちに、「諸君は海兵隊の歴史の一部となった」と語りかける。

スタロシック2等軍曹はパリス・アイランドで新兵訓練を経験し、そこで訓練教官として勤務してから、西海岸側へと異動した。

「訓練を開始したとき、私にはその重要性が分かった。女性はいつも拒絶されてきた」とスタロシック2等軍曹は語る。「今は男性と女性が肩を並べて訓練を受ける。同じ装備を背負い、同じ距離を行軍する。これによってジェンダー・バイアスが多少なりとも解消されることを願う」

スタロシック2等軍曹は、訓練した新兵の中で最も優秀だった1人として、アビゲイル・ラグランドさん(20)の名を挙げた。ラグランドさんは、自分の小隊には特別な達成義務が課されているのを感じたという。

「私たちはあまりにも多くの人から注目されており、失敗と見なされたくなかった」とラグランドさんは語る。彼女はコロラド州コロラド・スプリングスの軍人一家の出身だ。

ラグランドさんは、海兵隊には特別な兄弟愛があると聞いて、志願することに決めた。

「これからは、姉妹愛もあるのだけど」と彼女は言った。

(翻訳:エァクレーレン)

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