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焦点:メキシコ麻薬戦争ついに首都へ、大統領の「非暴力」尻目に

2020年07月06日(月)11時37分

 6月27日、「麻薬戦争」が繰り広げられるメキシコの中でも、首都メキシコ市は比較的平穏なオアシスに近いと考えられていた時期があった。写真はメキシコ市の治安庁長官が襲撃された現場。26日撮影(2020年 ロイター/Henry Romero)

[メキシコ市 27日 ロイター] - 「麻薬戦争」が繰り広げられるメキシコの中でも、首都メキシコ市は比較的平穏なオアシスに近いと考えられていた時期があった。しかし市の治安責任者の乗った装甲仕様の車を武装集団が銃を乱射して襲うという衝撃的な暗殺未遂事件により、少なくとも麻薬カルテルの1つが平和を破るのも恐れないことが証明された。

負傷したガルシア・アルフッシュ治安庁長官(38)は直ちに、犯行は恐らく最も暴力的な麻薬カルテル「ハリスコ・ヌエバ、ヘネラシオン(CJNG)」によるものだと指摘した。すぐに病院のベッドから携帯電話にメッセージを入力、投稿したとみられる。

長官は肩と鎖骨、膝を撃たれたものの、麻薬カルテルの取り締まりを続けると誓っている。

事件は26日朝、メキシコ市きっての高級住宅街で起きた。カルテルの武装集団は長官の命を奪うことには失敗したが、警護の2人と、出勤途中の女性が巻き添えで死亡した。

治安専門家のエルビエル・ティラド氏は「最近まで、メキシコ市では大きな麻薬カルテルは活動していないと多くの人が思っていたが、事実は違った」と語る。

ロペスオブラドール大統領は27日のビデオメッセージで、政府の情報機関は襲撃計画を事前に察知し、長官に特別な警戒を呼び掛けていたと釈明した。

メキシコ市の市長によると、襲撃の首謀者とされる男を含め既に約20人が逮捕されている。

襲撃について多くのアナリストは、CJNGが自らの力を誇示するために実行したもので、複数の麻薬カルテルがメキシコ市で勢力を拡大している証拠だとみている。

一方、麻薬カルテル専門家のトマス・グエバラ氏は「私に言わせれば、力の誇示というより、溺れかけた人間の悪あがきだ」と言う。暫定的な報告書では、カルテルは約3週間前から襲撃を計画しており、警察は直後に逆襲、逃げる武装集団を一網打尽にすることができたとしている。グエバラ氏は「少なくともメキシコ市では、警察は良い仕事をしている。これで他州の警察部局も士気が上がると期待したい」と語った。

CJNGはシナロア・カルテルと並び、メキシコ最強のギャング集団だと考えられている。月給が安く訓練も行き届かない全国の警察部局内部に首尾よく入り込み、その保護のもとで麻薬密売のビジネスを展開してきたとされる。

左派のロペスオブラドール大統領は前任者と比べ、犯罪集団撲滅に向けてさほど対決的な姿勢で臨んでいない。社会福祉支出を増やして、犯罪の根本原因と見なす貧困および若者の失業問題に取り組むことを優先してきた。

大統領は27日のメッセージでも、「だれに対しても戦争は宣言しない」と述べるとともに、将来の襲撃は防ぐと約束した。「彼らがわれわれを脅すのは許さない」と語った。

しかし大統領就任1年目の昨年、同国の殺人件数は過去最多を更新し、今年はさらに増えそうな勢いだ。このため大統領は方向転換を迫られる可能性が高い。

治安専門家のティラド氏は、「軍を動員する必要があるだろう」とした上で、それでもCJNGなど高度に武装した連中の拡張や命を狙う新たな襲撃は抑えられそうにないと予想。「まるで前に映画で見たような光景だ」と語った。

(Lizbeth Diaz記者)

ロイター
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