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アングル:新型コロナで理性失うインド市民、嫌がらせやデマ横行

2020年04月03日(金)08時28分

新型コロナウイルスに感染し死亡したサミル・クマル・ミトラさんの遺体が運ばれたコルカタの火葬場。27日撮影(2020年 ロイター/Rupak De Chowdhuri)

[ニューデリー/コルカタ 29日 ロイター] - 米フィラデルフィアの大学院生、サトヤキ・ミトラさん(27)は今月半ば、インド東部のコルカタに住む父親(57)から微熱があると告げられたが、特に心配はせず、新型コロナウイルスの検査を受けるよう伝えた。

最初の検査は陰性だったが、父親サミル・クマル・ミトラさんの容態は徐々に悪化。次の検査で陽性となった2日後の23日に死亡し、家族を悲しみに突き落とした。

同時にコルカタ市民から湧き起こった罵詈(ばり)雑言の嵐に、サトヤキさんはショックを受ける。

コルカタの街中では、ウイルスをまき散らすとしてサミルさんの火葬をやめるよう求める群衆と警察が何時間も衝突。フェイスブックに残ったサミルさんのアカウントには、彼が息子とその米国人の妻に会って死のウイルスをコルカタに持ち込んだとの批判が書き込まれた。

「彼のようなやつらのせいでコロナウイルスがやってきた。やつらを銃殺しろ」──。サミルさんと家族のプロフィール写真の下に記されたメッセージだ。

しかし、実際にはサトヤキさんは昨年7月以来、帰省はしていないという。

ソーシャルメディアでは、感染拡大が深刻なイタリアにサミルさんや家族が旅行していたという書き込みもあったが、サミルさんの同僚やサトヤキさんによると、海外旅行をしたという事実はない。

こうした事態が起きているのはコルカタだけではなさそうだ。群衆が医師や航空機の乗務員など、ウイルスを持っていると疑った人々に嫌がらせをしているとの報道は国内各地で出ている。

インドではかねて、イスラム系住民とヒンズー系住民の間で過去数年で最悪の暴動が頻発し、フェイクニュースなどがそれを助長している。この国で厳しい批判やデマが広がると、民衆は容易に妄想にとらわれて理性を失い、暴動にまで発展し得ることが浮き彫りになった。政府のコロナ危機対応も複雑さを増しそうだ。

インド全土は21日間のロックダウン(封鎖)に入っている。これまでのところ他の大国に比べ、新型コロナの感染確認者数と死亡者数は少ないが、専門家と一部高官は、今後急増しかねないと懸念している。

サトヤキさんによると、彼と妻はソーシャルメディアで攻撃の標的となり、母親と祖母は怖くて家に帰れず、病院に避難している。

「どうしてここまで憎しみに駆られるのか理解できない」。サトヤキさんは米国からロイターに語った。新型コロナの感染拡大で渡航が制限されているため、サトヤキさんはインド国鉄の職員として長年働いた父親を見送る最後の儀式のために帰国することもかなわなかった。

<隔離者リストが拡散>

インド政府は20日、ソーシャルメディア企業に対し、偽情報や感染拡大に関する未検証のデータの拡散を取り締まるよう求める勧告を発布。政府高官も動員してフェイクニュースの摘発に乗り出した。

インドの民間ファクトチェック企業2社がロイターに明らかにしたところでは、インドで感染者が最初に確認されて以来、ソーシャルメディアで誤情報やフェイクニュースが急増している。

「ニュースチェッカー」の発行人ラジネイル・カマス氏は、大きな政治イベント期間中の誤情報の急増ぶりにそっくりだと指摘する。インド各地の言語で問い合わせも殺到しているという。「だれもが『これは本当ですか』と聞いてくる」

オンラインのプラットフォームを使い、リスクが高いとされる地域から最近帰った人や、感染者と接触した可能性のある人を特定しようとする動きも見られる。

南部カルナタカ州当局は、複数地域で隔離されている人々のリストをオンラインに載せ、それが対話アプリ「ワッツアップ」の地元グループでシェアされている。

住所も記載されているこのリストを元に、ユーザーが自分の郵便番号を入力して近所で隔離されている人がいないか調べられるウェブサイトも登場した。

28日夕方時点で、インドで確認された感染者は909人、死亡者は19人。サミルさんは西ベンガル州で死亡した1人目の新型コロナ患者となった。

インドの保健当局は、国内の感染者は感染拡大地域への渡航歴がある人々や、そうした人々と接触した人々におおむね限られていると発表している。

しかし5月半ばまでに10万人以上が感染する可能性があるとの予測もあり、老朽化したインドの医療体制に厳しい重圧がかかる恐れがある。

ロイター
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