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アングル:高齢化の日本で「無縁遺骨」増加、失われる家族の絆

2018年10月28日(日)09時33分

 10月19日、身寄りがなく、引き取り手のいない「無縁遺骨」が日本各地で増加している。写真は、無縁遺骨が安置されている施設を訪れ、手を合わせる横須賀市当局者。9月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Kaori Kaneko

[横須賀 19日 ロイター] - 身寄りがなく、引き取り手のいない「無縁遺骨」が日本各地で増加している。遺骨の安置スペース不足を引き起こす一方で、家族の絆が薄れ、経済的圧力にさらされる日本の高齢化社会を象徴する問題となっている。

身寄りのない死者は公費で火葬されるが、その身元は判明していることが多い。だがほとんど場合、遺族は引き取りを拒否するか、連絡しても返事がない。埋葬には費用も時間もかかることから、故人をほとんど知らない親戚には負担となる。

「私が死亡した時、15万円しかありませんが、火葬・無えん仏にしてもらえませんか。私を引き取る人がいません」──。神奈川県横須賀市で2015年、70代の男性がこのような内容の遺書を残して亡くなった。男性の遺骨はその後、地元の寺に埋葬された。

引き取り手のいない遺骨は、生活保護に頼って生活する高齢者が増え、核家族化が進む日本の、社会的、経済的、そして人口構造的な変化を浮き彫りにしている。現代の日本では、伝統的な家族の絆や役目は薄らいでいる。

こうした問題は今後、さらに深刻化すると専門家は指摘する。日本の人口は減少する中で、年間の死亡者数は現在の133万人から2040年には167万人に増加すると予想されている。

横須賀市では、300年の歴史のある納骨堂を去年閉鎖。そこに収められていた遺骨は、より少ない数の骨つぼに収め直され、市内にある別の保管場所に移された。それとは別に、市役所にも約50柱の引き取り手のない遺骨も安置されている。

「納骨スペースはなくなりそうで、ひっ迫している」と、さいたま市の生活福祉課で課長補佐を務める中村仁美さんは言う。同市では近年、引き取り手のいない遺骨が増加しており、その数は計1700柱あまりに達した。

「生活保護の人が多い。もともと親族とうまくいっていない人が多く、なかなか引き取りにつながらない」と中村さんは話す。

賃金がほとんど上昇せず、高齢者の子ども自身も年金で暮らしている中で、葬儀代など死亡時の費用は重荷になりかねない。

精進落としなどの飲食代や香典返しの費用、僧侶へのお布施代など伝統的な葬儀にかかる費用は計200万円程度になり得ると業界筋は言う。

最低限の葬儀を数十万円で行う新たなビジネスもある。

<増加する貧困高齢者>

近年、貧困高齢者の数は増えており、一部は自身の葬儀費用を出すことも難しい。政府統計によると、2015年、高齢者全体の3%近くが生活保護に頼っていたが、その割合は20年前と比べてほぼ倍増している。生活保護を受給している世帯の半数超が65歳以上だ。

「家族との関係性が希薄になる中で、孤独死した後、火葬した遺骨を引き取らないことも増えてくると思う」と、関西大学社会安全学部の槇村久子客員教授は言う。

かつて日本では、家族3世代が1つ屋根の下で暮らすことは珍しくなかった。だが日本経済が変貌を遂げて、少子化が進むにつれ、仕事などのために、実家から遠く離れた場所に住むようになった。

65歳以上が国内人口に占める割合は、現在の28%から2040年には36%に増加する見通しだ、と国立社会保障・人口問題研究所は予想している。

「今まで家族や地域が(亡くなった人々を埋葬する)役割を担っていた」と槇村氏。だが、そうした役割を担う人が減少する中、「行政の負担が増えていくと思う」と同氏は語った。

<安堵>

横須賀市では、葬儀や親戚に関する情報を残さずに亡くなる人が増えている。

市当局者は親族に手紙などで遺骨の引き取りを依頼するが、返事がないことも多いという。

「(そのように亡くなった人たちは)ごく普通の一般市民だ。誰にでも起こり得る」と、福祉部の北見万幸次長は話す。「骨が、今生きているわれわれ人間たちに警告している。何の準備もしないと、これだけ引き取られなくなっていくんだよ、と」

引き取り手のいない遺骨の多くが貧困高齢者のものであることから、横須賀市は2015年、身寄りがない低所得の高齢者のために「エンディングプラン・サポート事業」を開始した。

火葬・埋葬費用上限25万円のうち、個人が少なくともその5分の1を支払い、残りは公費で負担する。これまで数十人が登録し、横須賀市は今年、墓の所在地などを登録する別のサービスを全ての市民に拡大した。

「すべてに安心感を持てるようになった」と語るのは、高齢者施設で暮らす堀口純孝さんだ。

堀口さんは未婚で、3人いる異母きょうだいとは何年も会っていない。もし自分が死んだら遺骨はどうなるのか心配だったという。「日々の暮らしは変わった。落ち着きがでてきた」と、堀口さんは語った。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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