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焦点:トルコリラ急落で新興国に「危機の伝染」が復活

2018年08月14日(火)11時58分

 8月10日、トルコリラの急落が、「危機の伝染(コンテージョン)」によって新興国資産全体が売られる展開を復活させてしまった。写真は各国紙幣。フランクフルトで昨年5月撮影(2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach/Illustration)

[ロンドン 10日 ロイター] - トルコリラの急落が、「危機の伝染(コンテージョン)」によって新興国資産全体が売られる展開を復活させてしまった。

コンテージョンの規模は、1997─2000年や世界金融機の2008─09年ほど大きくないが、南アフリカからロシア、メキシコまで無差別的に資産売りが出ている状況が鮮明だ。

今年に入ってアルゼンチンやブラジルなどで危機が発生しても、他の新興国に波及しなかったことから、コンテージョンは鳴りを潜めたとの希望的観測が浮上した。しかし10日にリラが大きく値下がりすると、南アフリカランドやブラジルレアルも同様に急降下。2013年に米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和縮小を示唆して新興国が動揺したいわゆる「テーパー・タントラム」以降で初めて、本格的なコンテージョンの兆候が出現した。

APQグローバルのバート・タートルブーム最高経営責任者(CEO)は「市場参加者が1国の悪いニュースを目にしてはっと気が付き、すべての地域を売りの対象にし始めるという、いつもの典型的な新興国市場のお話だ」と述べた。

確かに現象面をとらえれば、かつて新興国市場が襲われたのと同じ混乱が起きている。

国際金融協会(IIF)のチーフエコノミスト、ロビン・ブルークス氏は、これまでの新興国への資金流入額が非常に大きく、水準的にテーパー・タントラム以前に匹敵していた上に、資金流入局面の終盤でなお高いリターンを得られたいくつかの市場への投資が急増していたと指摘した。

その結果、資産運用会社はリスク量を減らして今後想定される顧客への返金手当てや損失の限定化に乗り出しており、メキシコや南アフリカといったより流動性が高くそうした取り組みが可能な場所で実行しようとしている。

TDセキュリティーズの新興国市場戦略責任者クリスチャン・マッジオ氏は「身動きできなくなっている他のポジションで生じた損失や、(解約請求による)落ち込むを埋める現金が必要になる。それが売りの波及と連鎖反応を引き起こす」と説明する。

ADMインベスター・サービシズ・インターナショナルのグローバル・ストラテジスト兼チーフエコノミスト、マーク・オストワルド氏は新興国市場について、入り口は大きいがいざ撤退する際の出口は極めて小さく、相当量の資産を売る場合には大規模なコンテージョンが発生すると付け加えた。

<ドル建て債務>

ではなぜ今、コンテージョンなのか。複数の市場参加者の話では、一部の新興国が世界的な緩和局面で積み増してきたドル建て債務の水準と、今後それを返済していかなければならない事実を、投資家が認識するようになったことが理由の1つだという。

米連邦準備理事会(FRB)が利上げを進め、ドルが上昇するとともに、新興国の借り入れコストも高まってきている。この部分でトルコが最も脆弱ではあるかもしれないが、資産と負債のミスマッチに直面しているのは決して同国だけではない。

トルコの場合、今回のリラ安で当局が有効な手を打たずにいる間に、米国が新たな制裁を発動したことが危機を呼ぶ最後の一押しになった、とブルックス・マクドナルドの投資ディレクター、エドワード・パーク氏はみている。

ただパーク氏は「トルコに対して大きな否定的な心理が働いているとはいえ、市場参加者はトルコだけに限らず、対外債務の多さからほかにも売りの集中砲火を浴びる国が出てくる可能性があると考えている」と指摘した。

(Claire Milhench記者)

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