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焦点:LNGに巨大プロジェクトの波、供給不足にらみ投資拡大

2018年08月14日(火)10時42分

 8月6日、数十億ドル規模の液化天然ガス(LNG)プラント建設に向けた新たな競争が勢いを増している。写真はLNGを再ガス化するターミナル。マルタ首都のバレッタ港で2013年7月撮影(2018年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

Dmitry Zhdannikov and Ron Bousso

[ロンドン 6日 ロイター] - 数十億ドル規模の液化天然ガス(LNG)プラント建設に向けた新たな競争が勢いを増している。LNG投資は長い間停滞していたが、エネルギー大手は5年以内にLNGの供給が不足するとみている。

2014年にエネルギー価格が崩壊した後、ガスを輸送のために冷却して液体にする新たな複合施設への投資は枯渇した。

2000年代後半から大量に建てられたLNGプラントにより、2020年代初めまで供給過剰をもたらすのではないかとの懸念がさらに投資意欲を減退させた。

しかしこの1年で、センチメントはすっかり変わった。原油価格の上昇と、中国やインドといった急成長する経済国からの非常に強い需要に支えられ、エネルギー大手幹部は再び新たなプロジェクトに取り組む条件が整ったと自信を強めている。

世界最大のLNG生産国であるカタールは、2023─24年までに100─108mpta(100万トン/年)を生産するため同国の施設を3分の1程度拡張する準備をしている。

「世間が言う供給過剰について私は気にしていない。市場が悲観的になると予想して施設を拡張しなければ、市場が上向いたときにその流れに乗ることはできない」と、国営石油会社カタール・ペトロリアム(QP)のサアド・アルカービ最高経営責任者(CEO)は5月、ロイターに語った。

拡張にあたっては、新規参入者のほか、同社の長年のパートナーである米エクソンモービルや英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェル、仏トタルや米コノコフィリップスからの建設支援や出資を期待していると同CEOは語った。

見通しが大きく変化したのは、中国が近年、汚染対策で石炭の使用を減らしてLNG輸入を大幅に増やしているからだ。

「需給バランスは最近、以前よりも生産者に有利なようにみえることは確かだ」と、トタルのガス部門責任者フィリップ・ソーケ氏は言う。同社はシェルに次いで世界2位のLNG取引業者だ。

「中国は今後も需要に重要な影響を及ぼし続けるだろう。同国の需要は減速していない。インフラ強化へとますますシフトしている」と同氏はロイターに語った。

<過去の過ち>

バーンスタインによると、LNG市場は2030年まで年間2億トン以上の新規供給、すなわち2025年まで約25─30mpta分の生産設備拡大を必要としている。

「市場が適切に供給されるには、2020年までに60mpta、2020─25年はさらにプラス100mptaの生産が認められる必要があると、われわれは考えている」とバーンスタインは指摘する。

バーンスタインによれば、LNG新プラントの生産能力が最大に達するため、生産能力拡大は2019年末までには急速に減少するとみられる。

シェール開発の拡大で供給が急増し価格は下落した米国が、成長の主なけん引役になると予想されている。

2010年代初め、投資家はエネルギー大手に対し非常に批判的だった。進行中の多くのLNGプロジェクトでコストが膨れ上がったからだ。例えば、米シェブロンのオーストラリア西部ゴードンでのプロジェクトは史上最高の540億ドル(約6兆円)かかり、世界最大の洋上液化施設となるシェルのプレリュードLNGの費用は140億ドルに上った。

2014年のエネルギー価格崩壊を受けて補修コストが今なお棚上げされている上、新たなテクノロジーが設計の簡素化と改善に役立っているため、新プロジェクトには資金調達に向けた競争力が備わっている。

エネルギー大手幹部も、過去の過ちから学んだと話す。

<新しいプロジェクト>

LNGの見通し改善と、原油価格の回復で収益が押し上げられたことを受け、エネルギー各社の経営陣は投資の準備を進めている。

エクソンは昨年、イタリア石油大手ENIが所有するモザンビークのロブマ堆積盆第4鉱区の権益25%を28億ドルで取得した。ここには85兆立方フィートもの資源が眠っていると推定される。

ENIのクラウディオ・デスカルッチCEOはロイターに対し、同プロジェクトにおけるパートナーのエクソン、韓国ガス公社<036460.KS>、中国石油天然気集団[CNPET.UL]は、2023─24年までの稼動を目指して、来年にも最終的な投資判断を行うと語った。同プロジェクトは、世界生産の5%に当たる年間1500万トンのLNGを生産する見通しだ。

シェルは生産を増やすため、2016年に540億ドルで英天然ガス開発大手BGグループを買収。現在、ジョイントベンチャーLNGカナダに関する決断が近づいている。実施すれば、同社にとって2011年以降、初の新規LNGプロジェクトとなる。

「天然ガス市場において、2020年代初めには供給が不足するとわれわれは予想している。LNGカナダはとても前途有望にみえる」と、シェルのジェシカ・ウール最高財務責任者(CFO)は先月語った。

シェルのベン・ファンブールデンCEOは、ナイジェリアのLNGプラントにおけるパートナーのナイジェリア国営石油、トタル、ENIと自社が、生産能力を30mptaに増やすため、年内に拡張を検討すると話した。

シェルのライバル企業である英BPとパートナーのコスモス・エナジーは来年までに、モーリタニア・セネガル沖のガス田開発について決定を下す。

バーンスタインのアナリストによると、世界のLNG需要は昨年、予想をはるかに上回る12%増となり、今年は最大10%の増加が見込まれているという。

近年、シェルやBPなどの企業では、天然ガス生産の割合が石油生産を上回っている。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

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