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焦点:米国の「インド太平洋」投資戦略、アジア諸国はそっぽか
8月2日、トランプ大統領(写真)が掲げてきた「インド太平洋」への投資戦略について、東南アジア諸国は中国の輸出業者のサプライチェーンに組み込まれており、この案を売り込むのは難しいかもしれないとアナリストは指摘する。米フロリダ州で7月撮影(2018年 ロイター/Carlos Barria)
[シンガポール 2日 ロイター] - お気持ちはありがたいが、中国への貿易戦争をちらつかされるとわれわれが数十億ドルの損失を被るので、そちらを止めて頂きたい──。ポンペオ米国務長官は今週、インド太平洋地域に1億1300万ドル相当を拠出する計画をひっさげて東南アジア諸国を訪問するが、各国の反応はこんな感じかもしれない。
国務長官は今週、この地域のハイテク、エネルギー、インフラの各分野に重点投資すると発表し、トランプ大統領が掲げてきた「インド太平洋」戦略の具体策を初めて示した。
しかしアナリストによると、東南アジア諸国は中国の輸出業者のサプライチェーンに組み込まれており、この案を売り込むのは難しいかもしれない。
シルクロード経済圏構想「一帯一路」を進める中国との緊張がさらに高まる恐れもある。
「東南アジア諸国は、1億1300万ドルの構想による恩恵の度合いより、米中貿易摩擦によるとばっちりの方を気にしている」と言うのは、東南アジア経済研究所(シンガポール)のシニアフェロー、マルコルム・クック氏だ。
ポンペオ氏はマレーシアのマハティール新首相と短い会談を行った後、貿易戦争によって最も大きな打撃を被る国のひとつ、シンガポールに飛んで東南アジア諸国連合(ASEAN)会合に出席する。
シンガポール最大手銀行DBSの試算では、米中間の貿易全体に15─25%の関税がかけられる「全面戦争」となった場合、来年のシンガポールの経済成長率は現状予想の2.7%から半分以下の1.2%に急減する。マレーシアの来年の成長率も5%から3.7%に下がる見通しだ。
シンガポールのバラクリシュナン外相は2日、ASEAN外相会議の冒頭に「われわれは皆、貿易戦争の嵐をもたらす雲を鋭く感知している」と述べた。
<北朝鮮問題>
ASEAN会合では南シナ海問題や北朝鮮の非核化といった安全保障問題も議題に上る。ポンペオ国務長官は東南アジア諸国に対し、北朝鮮への制裁継続を求める見通しだ。
「インド太平洋」戦略についてのロイターの取材に対し、この地域の高官からはほとんどコメントが得られなかった。こうした慎重姿勢の背景には、この地域が米政権から手のひら返しに遭った経緯がある。
オバマ前米大統領はアジアに「軸足」を移す政策を唱えたが、トランプ氏になって「米国第一」主義に転換。米国は環太平洋連携協定(TPP)からも脱退した。
この結果、アジア諸国は次々と中国側へと引き寄せられている。南シナ海問題では態度を軟化させ、インフラ開発のために中国から数十億ドルを借り入れている。フィリピンやタイが好例だ。
米高官らはインド太平洋計画について、一帯一路と直接競う意図はないと説明した。しかしポンペオ氏は、米政府はこの地域の支配を狙ういかなる国にも「対抗」すると述べ、暗に中国に触れた。
中国高官らは米国の姿勢を批判していないが、共産党機関紙系英字紙グローバル・タイムズは7月31日の社説で「一帯一路は繁栄し続ける定めである。このことは、けちな慣行に携わり、愚弄を行う、利己的な特定勢力とは何ら関係ない」と論じた。
(John Geddie記者)