ニュース速報

ワールド

インタビュー:移民問題、ポピュリズムで解決せず=ローマ法王

2018年06月22日(金)12時30分

6月20日、ローマ法王フランシスコはロイターとのインタビューで、トランプ米政権などの移民政策などを巡り、ポピュリズムは移民問題の解決策にはならないと述べて批判した。写真は同日、バチカンで聴衆に手を振る法王(2018年 ロイター/Stefano Rellandini)

Philip Pullella

[バチカン市国 20日 ロイター] - ローマ法王フランシスコはロイターとのインタビューで、トランプ米政権などの移民政策などを巡り、ポピュリズムは移民問題の解決策にはならないと述べて批判した。

法王は17日に行われたロイターとのインタビューで、メキシコ国境から不法入国した親子を別々に拘束するトランプ政権の当初の政策について、親子を引き離す政策は「カトリックの価値観に反する」もので「非道だ」とした米国のカトリック司教の発言を支持すると述べた。

「簡単な問題ではないが、ポピュリズムは解決にならない」と、法王は指摘した。

法王がインタビューに応じるのは異例で、話題は多岐に及んだ。法王は、カトリック教会の司教任命権を巡る中国政府との交渉が歴史的な合意に達する見通しについて、楽観視していると述べた。

また、チリでの性的虐待スキャンダルを巡り、今後も司教の辞任が続く可能性があると語った。

5年の在任期間を振り返り、法王は、教義の解釈が「リベラル過ぎる」との批判がカトリック教会内外の保守派から出ていることについて、自らの指導姿勢を擁護した。

法王はまた、ローマ法王庁(バチカン)の最上級職により多くの女性を登用したいと述べた。

インタビューの中でもっとも厳しい発言の1つは、メキシコ国境から不法入国した移民をすべて訴追し、大人は拘置施設に、子供は親から引き離して政府収容施設で拘束するという、トランプ米大統領が当初掲げていた政策に対するものだった。

子供たちがコンクリート床の施設に閉じ込めらた様子を映したビデオや、泣き声の録音がネット上で拡散し、米国内で怒りの声が噴出しただけでなく、国外からも批判を浴びた。

米国のカトリック司教は、国内の他の宗教指導者と声を合わせ、同政策を批判していた。

「私は、司教の協議の側に立つ」と、法王は米国の司教が今月出した2つの声明について述べた。「これらの事柄について、私は司教の協議を尊重することを明確にしたい」

世界に13億人の信徒を持ち、米国内最大のキリスト教宗派であるカトリック教会の長を務める法王とのインタビューは、トランプ大統領が20日に方針を一転し、不法入国した親子を一緒に収容することを認める大統領令に署名する前に行われた。

米国の移民問題とタイミングを同じくして、欧州でも中東やアフリカの貧困や紛争を逃れてきた多数の移民や亡命希望者を巡って、反移民を掲げる新たな政治勢力が力を増している。

法王は、ポピュリストが移民問題について「精神的な病を作り出している」と批判。欧州のような高齢化社会は「人口統計上の冬」を迎えており、さらなる移民が必要だと指摘した。

移民なしには、欧州は「空っぽになる」と法王は付け加えた。

<教会の未来は市井にあり>

2013年の就任以降、西側諸国の多くで政治が経済ナショナリズムの様相を強めるなかで、法王はカトリック教義のリベラルな解釈を推進してきた。

法王は、特にセクシュアリティや離婚したカトリック教徒に対する寛容な扱いを巡り、カトリック教会内の保守派聖職者から反発を受けてきた。だが法王は、時に自分に対して「汚い」発言をする保守派のために祈っていると述べた。

81歳になるアルゼンチン出身の法王は自分の指導方針を擁護し、カトリック教会の未来は「街角にある」と述べた。

法王はまた、女性の方が紛争解決に優れているとして、バチカンの主要部門にもっと女性を起用したいと述べた。一方で、それが「スカートをはいたマスキュリニズム」になってはいけないとも述べた。

法王は、背中の症状からくる足の痛みを除けば健康状態は良好だと述べた。前任の法王ベネディクトが2013年にしたように、健康状態を理由にいつか退任することがあるかもしれないとした就任直後の発言を繰り返しつつも、法王は「今は、まったくそれは考えていない」と述べた。

法王は、米国や欧州で議論がさかんな移民の問題について時間を割いて話した。イタリアのポピュリスト新政権は、イタリアを目指して地中海を渡ろうとした移民を救助した非政府船の受け入れを拒否。船の1つは、移民600人以上をスペインに上陸させる結果となった。

イタリア内相で右派政党「同盟」を率いるサルビーニ氏は、過去に法王を批判し、もし法王が移民のことを気にかけるならバチカンで受け入れるべきだと発言している。

「やってくる人々を拒否することはできないと思う。受け入れ、支援し、ともに歩き、どこに落ち着かせるか欧州全体で考えるべきだ」と、法王は指摘。

「それに取り組んでいる政府もあり、(移民の)人々は最善の方法で定着すべきだ。病的な反応をすることは、解決策ではない」と法王は話し、「ポピュリズムでは解決できない。解決するのは、受容と研究と分別だ」と、付け加えた。

<困難な決断も>

法王は、キューバとの間の渡航や通商に新たに制限を課したトランプ大統領の昨年の決定を悲しく受け止めたと話す。トランプ氏の決定により、前任のオバマ大統領が実施したキューバとの関係改善路線が巻き戻された。法王は、バチカンも仲介に一役買ったオバマ氏の取り組みは「前向きの良き一歩」だったと振り返った。

法王は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱したトランプ大統領の決定について、「人類の未来がかかっており、少し痛みを感じた」と述べた。また、トランプ氏が方針を再検討することを望むと語った。

中国の司教任命問題について、法王は、任命権を巡る中国政府との話し合いは、「良い地点にきている」と述べて、法王に忠誠を誓う信徒を見捨てる結果になる恐れがあるとの批判を否定した。中国のカトリック信者は、ローマ法王に忠誠を誓い、公認されていない「地下教会」と、国が公認する「中国天主教愛国会」に分れている。

法王は、性的虐待とその隠ぺい疑惑を巡るスキャンダルで、チリの司教3人の辞任を認めている。法王は、さらに辞任を受け入れる可能性があると述べたが、どの司教が念頭にあるかは明かさなかった。

法王はまた、米国のレイモンド・レオ・バーク枢機卿を始めとする教会内の保守派からの批判についても言及した。

バーク枢機卿と他の枢機卿3人は2016年、法王に対して異例の批判を行う書簡を公開。法王が重要な倫理上の問題について混乱を招いたと主張した。

法王は、枢機卿の書簡について「新聞で知った」とした上で、「それは教会的なやり方ではないが、誰しも間違いを犯すものだ」と述べた。

法王は、異なるものの見方を内包する余地をたたえた川の流れに教会をなぞらえたイタリア人枢機卿(故人)の例えを引用。「われわれはお互いに尊重し合い寛容でなくてはならない。もしもし誰かが川の中にいるなら、前進しよう」と、法王は述べた。

法王は、法王庁の改革は順調なものの、「まだやるべきことがある」と話した。法王は過去に、法王庁のキャリア職員は「精神的アルツハイマー病」にかかっていると批判していた。

法王は、過去にスキャンダルが多発した法王庁の財政の改革におおむね満足していると述べた。数百もの休眠口座や疑わしい口座を閉鎖したバチカン銀行は、「今では良好に機能している」と述べた。

「中には困難な状況もあり、いくつか強力な決断をしなければならなかった」と、法王は話した。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中