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アングル:トルコの通貨安対策に呆れる投資家、広がる不信感

2018年05月17日(木)09時47分

 5月15日、通貨リラの急落に見舞われているトルコのエルドアン大統領(写真)による経済政策説明会に出席した投資家のあいだに「衝撃と不信感」が広がった。ロンドンで14日撮影(2018年 ロイター/Henry Nicholls)

[ロンドン 15日 ロイター] - トルコのエルドアン大統領が率いる政府代表団が14日、ロンドンで有力機関投資家に経済政策の説明会を開いた。通貨リラの急落に見舞われいるトルコとしては、政策運営に安心感を持ってもらう狙いだったが、出席した投資家の間には「衝撃と不信感」が広がった。

投資家が困惑を隠せなかったのは、エルドアン氏が景気刺激のための金利引き下げを目指しながら、物価上昇と通貨安に歯止めをかけるという同氏の計画が、一体どうやって実現できるかのか理解できなかったからだ。

何人かの投資家からは、エルドアン氏は国内の政敵を倒したとはいえ、経済学の正統な理論を無視した政策で国際金融市場に挑戦することは、はるかに難しいのだと思い知るだろうとの声が聞かれた。

最近はドル高の再燃や原油価格上昇、借り入れコストが跳ね上がっていることが、新興国市場全般を大きく混乱させている。しかしそうした要因で最も打撃を受けているのはトルコで、大幅な経常赤字を抱え、金融政策の独立性を巡る懸念が強まっていることが背景にある。

15日には、エルドアン氏が6月24日の大統領選と国会総選挙後に経済の統制を強化する意向を示すと、中央銀行の物価コントロール能力を巡る不安が強まり、リラは過去最安値を更新した。

トルコの物価上昇率は昨年初め以降2桁に戻っているが、エルドアン氏は自らを高金利に対する抵抗者と位置付け、物価抑制には金融引き締めで対応するという金融政策の理論を歯牙にもかけようとしない。

複数の投資家はロイターに、この局面で国際金融市場とあえて対決しようとしているエルドアン氏の姿勢には、開いた口がふさがらないと打ち明けた。

<危険な闘い>

エルドアン氏には敵対者が多く、その中には同氏が2016年のクーデター未遂事件の首謀者と批判する在米イスラム教指導者ギュレン師も含まれる。

ある大手資産運用会社のファンドマネジャーで、トルコのシムシェキ副首相との非公開会合に出席した人物は「エルドアン氏は反対勢力やギュレン師、過激主義者などと闘争を続けているが、今や市場にも闘いを挑んでおり、これは危険だ。金融市場を攻撃しても、勝利できない」と警告する。

エルドアン氏と会った別のポートフォリオマネジャーは、エルドアン氏がある意味正直で、6月の選挙に勝てば金利は下がると明言したと指摘。「エルドアン氏の考えでは高金利は物価上昇につながる。私は同意しかねる」と話した。

エルドアン氏は投資家に発したメッセージと同じ趣旨の発言をブルームバーグのインタビューでも行っている。同氏は、中銀の独立性にお構いなく金融政策に影響力を行使すると明言した。

(Karin Strohecker記者)

ロイター
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