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アングル:トランプ米政権、「TPP復帰」の条件とリスク

2018年04月19日(木)08時10分

4月16日、トランプ米大統領(写真)は先週、就任直後に脱退を決めたTPPについて、オバマ前政権下で合意した条件より「大幅に良く」なる場合には復帰を検討すると表明した。米フロリダ州で撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

Fathin Ungku and Charlotte Greenfield

[シンガポール/ウェリントン 16日 ロイター] - トランプ米大統領は先週、就任直後に脱退を決めた環太平洋連携協定(TPP)について、オバマ前政権下で合意した条件より「大幅に良く」なる場合には復帰を検討すると表明した。

現在、TPP交渉はどのような状態にあり、米国が交渉に復帰するには、どのような条件を満たす必要があるのかを検証した。

●TPPとCPTPPとは何か

米国を含めた12カ国が合意した当初の通商協定はTPPと呼ばれている。主要通商政策の1つとしてTPPを掲げたオバマ前大統領は、批准に必要な議会同意を得ることができなかった。

米国の雇用を守るとして、トランプ氏が2017年1月の大統領就任から3日後にTPP脱退を表明したことにより、TPPの成立が危ぶまれる事態に陥った。

米国の脱退を受け、日本を含む残りの11カ国はTPPの内容をさらに協議。米国の要請でTPPに盛り込まれていた条件の一部を外す形で、再び合意に達した。11カ国は3月、「TPP11」とも呼ばれる「包括的および先進的環太平洋連携協定(CPTPP)」に署名した。

加盟国は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポールとベトナムの11カ国。新協定はこのうち6カ国の批准をもって発効する。

加盟11カ国の国内総生産(GDP)は約10兆ドル(約1070兆円)に達しており、世界全体の13%を占める巨大経済圏において、関税を大幅に引き下げる。米国が参加していれば、世界経済の40%を占めていた。

●TPPに関する最近のトランプ発言

トランプ大統領は12日、TPP復帰を検討するよう、通商代表部(USTR)のライトハイザー代表と国家経済会議(NEC)のカドロー委員長に指示した。共和党議員がトランプ氏との会合後に明らかにした。

トランプ氏は同日、以下のようにツイッターに投稿した。

「オバマ大統領時代よりも内容が大幅に良くなる場合に限って、TPPに復帰する。われわれはTPP加盟11カ国のうち6カ国と既に2国間協定で合意している。(TPP参加国の中で)最大の日本との合意に向け作業を進めている。日本は長年にわたって通商でわれわれに大きな打撃を与えている」

また、1月25日付の米CNBCテレビのインタビューでは、以下のように発言している。

「前よりも大きく改善した合意を得ることができればTPPに参加する。以前の合意はひどいものだった」

●米国がTPPに復帰するには

参加11カ国は当初の協定内容を変更してTPP11に合意しており、トランプ大統領が「より良い合意」を求めると発言している以上、単なる「再加入」では済まないとみられる。

「現在の条項をベースに交渉を再開して、(当初盛り込まれていた米国の)要望を再び組み入れれば合意に至るとは、極めて考えにくい」と、ウェリントンを拠点とするコンサルタントで、ニュージーランド政府の通商交渉担当だったチャールズ・フィニー氏は言う。

「交渉にはおそらく相当の時間がかかる。また、違う名称が採用され、TPPとは大きく異なる内容になるだろう」

CPTPPは、来年初めにも発効するとみられている。米国が再交渉に臨めるのは、早くてもそのころだ。参加11カ国がすべて新規参入国を承認しなければならず、各国が拒否権を持っている。

●より良い合意とは何か

参加11カ国は、従来TPPのうち、約20条項を棚上げした。その多くが、一部医薬品の知的財産(IP)保護強化や、著作権保護期間の延長や、急送便の障壁緩和など、米政府の要望に応じて盛り込まれたものだ。

TPP11の正式文書は584ページ。米国も参加した最初のTPPは622ページだった。削除されたページのうち、18ページがIPの章だった。IPは、米政府が特に重要とみなし、交渉が難航した分野だ。

米国の復帰には、日本を含めた他の参加国にとっての「弱点」となる分野の再交渉が必要になるだろう。例えば、ピックアップトラックに対する関税や、自動車の原産地認定に、どの程度の割合以上の国内製造部品を条件とすべきか、などが含まれる。日本は、タイなど参加国以外の国で製造した部品調達を維持したい方針だ。

このほかにも、米政府は農業分野でさらなる譲歩を他国に迫る可能性がある。トランプ氏が2016年の大統領選で勝利した州の多くは農業州だ。日本が、関税を守る重要品目の1つと位置づけているコメは、最も困難な交渉分野になる可能性がある。

技術的には、TPP11で凍結された条項を復活させることは難しくない。だが、「改善」させるとなると、話は別だ。

「凍結されたことには意味がある。(TPP11)参加国は、これらを削除することもできたが、そうしなかった」と、シンガポールを拠点とするシンクタンク、アジア・トレード・センターのデボラ・エルムズ氏は指摘。「問題は、米国の現政権が、オバマ前政権が携わったものなら何でもやり直したがることだ。少なくとも現段階において、11カ国に複雑な再交渉を行う意欲があるとは思わない」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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