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焦点:トランプタワーの「不人気」、火災で死亡の美術商が露呈

2018年04月17日(火)14時24分

 4月12日、米ニューヨーク中心部の高層ビル、トランプタワーで7日発生した火災によって亡くなったトッド・ブラスナーさん(67)は、火元となった同タワーの高級マンションに20年来住んでいた。写真は同タワー前を警備する警官。10日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

Andrew Hay

[12日 ロイター] - 米ニューヨーク中心部の高層ビル、トランプタワーで7日発生した火災によって亡くなったトッド・ブラスナーさん(67)は、火元となった同タワーの高級マンションに20年来住んでいた。

トランプ氏が2016年の大統領選に出馬表明して以来、美術ディーラーのブラスナーさんにとって、住み慣れたこのビルが、耐えがたい場所へと変わってしまっていた。

プラスナーさんの自宅マンションは、大統領がニューヨークにおける自宅とビジネス本拠地を置く同タワーの50階にあったが、売却に苦戦していたという。これは、かつて贅をつくした高層ビルの代名詞だったこのタワーの魅力が、いかに色褪せてしまったかを示している。

共和党大統領の名前を冠したこの5番街の高層ビルは、民主党支持者が大勢を占めるこの街で、多くのニューヨーカーからの寵愛を失った。また、新たな高級マンション建設によって、超高級住宅市場における存在感も低下していた。

トランプタワーのマンション価格下落スピードは、同じレベルの物件より大きいと不動産業者は指摘する。

ブラスナーさんは、常駐する武装警備員や大統領警護隊(シークレット・サービス)に嫌気がさし、約100平方メートルある自宅マンションの売却を決意したと、友人らは地元紙などに語っている。7日の火災で、ブラスナーさんが所有していたビンテージのギターや、芸術家アンディ・ウォーホールの作品も焼失してしまった。

不動産譲渡証書によると、ブラスナーさんは1996年に52万5000ドル(約5650万円)でこの部屋を購入。だが、2015年に個人破産を申告した際に値付けされた250万ドル(約2.7億円)では、買い手がつかなかった。

不動産サイトStreetEasyによると、同じような広さのトランプタワーの物件が「即売希望の特別価格」との宣伝文句で売りに出され、昨年12月に180万ドルで売却された。

ニューヨーク・イーストサイドの高級住宅地に古くから立つ高級ビルの多くは、より高層で高価な新築ビルが急増したことを受けて、不動産価値が下落している。

それでも1983年に完成したトランプタワー物件の下げ幅は市場平均より大きいと、不動産ブローカーや市場アナリストは指摘する。

「トランプ氏の立候補と大統領就任は、明らかに(トランプタワーの)不動産価値にマイナスに影響している」と、不動産仲介業ブラウン・ハリス・スティーブンスのウェンディ・マイトランド氏は言う。

同社は昨年、トランプタワーでファッション業界の顧客が所有していた、3ベッドルームの部屋を750万ドルで売りに出したが、買い手がつかなかった。

とはいえ、トランプ大統領の自宅と同じビルに住宅を欲しがる外国のバイヤーは多いと、不動産業者は語る。同タワーの不動産を管理するトランプ・オーガニゼーションも、トランプタワーが依然として世界で最も有名な不動産の1つだと主張する。

「(トランプタワーには)一流の住人がおり、世界の象徴的な存在であり続けている」と、同社広報担当のアマンダ・ミラー氏はメールで回答した。

それでも、ニューヨークの不動産サイトCityRealty.comによると、同レベルのミッドタウン・イースト・サイドの物件の下落率が8%にとどまる中、トランプタワーの1平方フィートあたりの価格は30%下落している。

同じくニューヨーク中心部にあり、トランプタワーに似ているとされる1975年築のオリンピックタワーは、不動産価格が2015年以降で21%下落。同期間に、新築ビルも含めた付近の不動産価格が29%上昇したのとは対照的だ。

トランプタワーでは、「現在22部屋が売りに出ており、そのこと自体が状況を物語っている」と、前出のマイトランド氏は話す。2015年の売り出し物件数は、その半数程度だったという。

<空港並みのセキュリティ>

トランプタワーの訪問客は、シークレット・サービスによる空港スタイルの保安検査を通らなければならない。ブラスナーさんは、トランプ大統領がニューヨークにいる間は、建物に入るのに数時間も待たされることに苦痛を訴えていた。

トランプ氏の当選直後にタワー周辺で盛り上がった抗議活動は、今では鎮静化している。だが一部住人は、大統領に強い反感を抱いたままだという。ニューヨーク市では、2016年の大統領選で民主党候補ヒラリー・クリントン氏の得票率が87%に達していた。

不動産会社ケラー・ウィリアムズNYCで営業を担当するリチャード・タイヤー氏は、選挙後、複数の物件オーナーがトランプ氏との繋がりを絶つために自宅を売りに出したと話す。

「(建物の)名前が理由で手放したがる人々がいた」と、タイヤー氏は語る。今は、トランプタワーの2寝室ある部屋を380万ドルで売り出しているという。

「政治信条が違い過ぎて、一切関わりを持ちたくないのだ」

その一方で、海外バイヤーの多くは現在も、トランプタワーを優良物件と見ており、五番街というロケーションを欲しがるという。

「買い取り価格を提示してくる人たちもいて、彼らはわざと低い価格を提示してくる」と、タイヤー氏は話した。

ニューヨークにある全ての「トランプ」ブランドの不動産価格が下落しているわけではない。ウエストサイドのリンカーンセンター近くに、1990年代から2000年代にかけて竣工したトランプ・プレイスの価格は上昇している。

トランプタワーに住むファッション業界の顧客には、ショーのためニューヨーク市内に滞在する時に部屋を利用するようにして、価格が回復するまで辛抱するよう助言している、とマイトランド氏は言う。

現在のトランプタワーの警備状況は「楽しいものではない」が、利点もある、とマイとランド氏。「あそこに住む人は間違いなく、恐らくこの街で、いえ世界で、最も安全なマンションに住んでいる」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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