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焦点:初の米朝首脳会談、北朝鮮の悲願は米政権のリスクに

2018年03月17日(土)08時40分

3月9日、北朝鮮の指導者は、これまで少なくとも過去20年に渡り、米国大統領との直接会談を求めてきた。写真は核兵器開発者と話す金正恩氏。2016年3月提供(2018年 ロイター/KCNA)

Josh Smith and David Brunnstrom

[ソウル/ワシントン 9日 ロイター] - 北朝鮮の指導者は、これまで少なくとも過去20年に渡り、米国大統領との直接会談を求めてきた。

予期せぬ形で米朝首脳会談の実現可能性が浮上する中、北朝鮮が長年切望してきた政治ショーの場を、同国に非核化を促す意味ある機会に変えるだけの専門知識が、主要ポストが空席だらけのトランプ政権には欠けているのではないか、とアナリストは危惧している。

韓国の政府高官は9日、トランプ大統領が、前提条件なしに5月までに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会うことに直ちに同意したと語った。北朝鮮に対する外交的アプローチを支持してきた人々からも、米政権が十分な準備期間なしに首脳会談を急ごうとしているのではないかとの懸念の声が上がっている。

米朝トップが史上初めて顔を合わせる、今回のような首脳会談では、少なくともいくつかの具体的な合意が両国間で成立した後に設定されるのが一般的だ。北朝鮮政府高官と非公式協議を行った経験があるシンクタンク「ニュー・アメリカ財団」のスザンヌ・ディマジオ上級研究員はそう語る。

「周到に準備した上で、細心の注意をもって遂行されなければならない」と、ディマジオ氏はツイートした。「さもなければ、中身のないショーに終わるリスクがある。現段階では、金正恩が内容やペースを設定し、トランプ政権がそれに対応している。米政権は、早急に動いてこの構図を変えなくてはならない」

ティラーソン米国務長官はこれまで北朝鮮を巡り、ホワイトハウスから大っぴらに見解の相違を露呈されることが多かった。8日も、米朝首脳会談の実施見通しが発表されるほんの数時間前に、ティラーソン氏は「われわれは交渉入りには程遠いところにある」と発言していた。

トランプ政権で韓国や東アジア関連の主要ポストに就いているのは、経験豊富なキャリア外交官たちだ。だが、その多くは「代行」の立場で、空席のままのポストも多い。

北朝鮮担当特別代表だったジョセフ・ユン氏は3月初めに退任した。トランプ氏は、まだ韓国大使を指名していない。

「トランプ大統領と金氏の会談には、リスクとチャンスの両方が潜んでいる。米側は、極めて周到に準備し、何の達成を目指し、見返りに何を提供する用意があるのか、明確にする必要がある」と、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のボニー・グレイザー氏は語る。

<北朝鮮への褒美>

北朝鮮はこれまで、国際的な正当性を確保するために米国指導者との首脳会談を求めてきており、米政権側は、それが一因で、この要望を拒否してきたと、専門家は指摘する。

「首脳会談は、北朝鮮にとってはご褒美だ」と、韓国・釜山大のロバート・ケリー教授は指摘する。「世界最強かつ民主主義陣営を主導する国家元首と会うという栄誉を彼らに与えることになる。だからこそ、北朝鮮が意味ある譲歩をしない限り、実現されるべきではない。これまでの大統領たちが応じてこなかったのはそのためだ」

北朝鮮が核兵器を保有し、トランプ氏がこの撤去のために軍事攻撃が必要になる可能性に言及している今となっては、首脳会談が失敗した場合の代償はこれまでより大きくなると、専門家はみている。

金正恩氏は、「非核化にコミット」し、核とミサイルの実験を凍結すると話したと、韓国特使として訪米した鄭義溶・大統領府国家安全保障室長は8日、ホワイトハウスで記者団に明らかにした。だが北朝鮮は、まだ詳細を明らかにしていない。

「これまで米朝首脳会談が行われたことは一度もない。北朝鮮がすでに核兵器を手に入れた後で会談を行うことは、基本的にはそれを前提に米国は北朝鮮と交渉に臨む用意があるというシグナルを送ることになる」と、カーネギー清華グローバル政策センターの北朝鮮専門家、趙通氏は言う。

「たとえ首脳会談で何ら進展がなくても、北朝鮮は1つ目の目的を果たしたことになる」

米政府高官は、トランプ氏はこれまでの大統領とは違うアプローチを取ることを期待されて当選したと話す。

それには、過去に失敗したような実務レベルでの交渉を避け、「過去の長年の足踏み状態を繰り返す代わりに、決断できる人物である」金氏と会うことも含まれていると、この高官は言う。

2000年に北朝鮮の趙明禄(チョ・ミョンロク)国防委員会第一副委員長がホワイトハウスを訪問し、当時のクリントン大統領と面会した、北朝鮮初で最高位の高官となった。

その直後に、オルブライト国務長官(当時)が平壌を訪問。クリントン氏の訪朝の地ならしのため、金正恩氏の父の故金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談した。だが、クリントン氏の訪朝は、在任中に実現しなかった。

オバマ米政権時代にも、北朝鮮高官らは米国との突破口を探ったが、米国側が外交的な譲歩を何も示さなかったため失望していたと、クラッパー元米国家情報長官は話している。

トランプ氏の強硬姿勢が首脳会談の機運を作ったと評価する専門家の中にも、今回は異なる結果を生むか注視していると話す人がいる。

「北朝鮮は、過去にもこういう発言をしている。金正日氏は、クリントン大統領に会いたがっていた」と、米シンクタンク「民主主義防衛基金」のマーク・デュボビッツ会長は言う。

「北朝鮮は、非核化に真剣にならなければいけない。一方で、トランプ政権は、5月の首脳会談に向けて厳しい制裁措置を続け、圧力を最大の状態に維持しておく必要がある」と、同氏は話した。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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