ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア、西側外交に欠かせぬ「悪役」に

2018年02月23日(金)15時33分

 2月18日、ミュンヘン安全保障会議でロシアを批判した西側の当局者や外交担当者は「不都合な真実」を認めている。すなわち、世界最悪の部類に入る紛争の多くを解決するうえで、ロシアは欠かせない存在だということだ。写真はロシアのプーチン大統領。ノボシビルスクで8日撮影。提供写真(2018年 ロイター Sputnik/Alexei Nikolskyi/Kremlin via REUTERS)

Robin Emmott and Andrea Shalal

[ミュンヘン 18日 ロイター] - トランプ米大統領の外交政策を巡り対立する欧米当局者だが、今月開催されたミュンヘン安全保障会議では、西側の民主主義を弱体化させようとするロシアの策動を批判する、という共通の大義を見いだした。

だが、18日閉幕した同会議において欧米がロシアに対する怒りを表明する一方、西側の当局者や外交担当者は「不都合な真実」を認めている。すなわち、世界最悪の部類に入る紛争の多くを解決するうえで、ロシアは欠かせない存在だということだ。

核保有国としてのロシアの地位、シリアにおける軍事介入、国連安全保障理事会における拒否権といった点を考慮すれば、東ウクライナから北朝鮮に至るどんな外交においても、最終的にはロシア政府の関与が必須になるという。

「ロシア抜きで、政治的解決は見いだせない」とノルウェーのバッケイェンセン国防相はロイターに語った。「政治的解決を模索できるようなポイントにたどり着く必要があるが、ロシア政府がその中心にならざるを得ない」

少なくとも公式には、ミュンヘンでのロシアは「悪役」だった。2016年の米大統領選に不正介入した容疑で、ロシア人13人とロシア企業3社が今月起訴されたことを受けて、同国は厳しく指弾され、2014年にウクライナのクリミア半島を併合した件については、さらに広汎な批判を浴びた。

就任1年のトランプ大統領は「米国第一」を掲げ、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)について同氏の見解はクルクル変わり、気候変動に関する「パリ協定」脱退を決定し、イランによる2015年の核合意遵守を承認しようとしていない。

その状況下で、西側諸国がこうした共通の旗印を掲げるのは画期的だ。

毎年開催されるミュンヘン安全保障会議は、欧米の安全保障当局者に加え、ロシアのトップ外交官も招かれる珍しい機会となるが、米政策担当者は、ロシア政府が米大統領選介入疑惑を公式に否定したことに対して、明らかに苛立ちを示していた。

米国のコーツ国家情報長官は、ロシア当局者がこのイベントに参加していることについて、「ロシア側が毎年、基本的には事実を否認するために誰かを派遣してくることに、驚かざるを得ない」と語った。

だが、外交官によれば、舞台裏の雰囲気は異なっているという。たとえば、ストルテンベルグNATO事務総長は、金と白の羽目板に飾られた高級ホテル「バイエリッシャー ホフ」の豪奢な1室で、ロシアのラブロフ外相と会談している。

「外交ネットワークはうまく機能している」とロシアのプシュコフ上院議員は語り、シリア内戦の解決に向けて、ロシア、トルコ、米国、イスラエルなど各国政府との接触を挙げた。「こうしたネットワークが効率よく活用されれば、もっと大規模な対立は予防できる」

ドイツのガブリエル外相は、数回にわたってロシアのラブロフ外相と会談し、東ウクライナ情勢へのロシア政府の関与を巡り科されている経済制裁の緩和に向けた展望を示し、ロシアを、核兵器の拡散防止に向けたグローバルな取り組みにおける「必要不可欠な」パートナーと呼んだ。

かつて米国務長官としてイラン核開発停止をめぐる2015年の合意に向けた交渉を担当したジョン・ケリー氏は、西側諸国が外交を通じてもっと大きな成果を挙げるには、ロシア政府との諸問題に関して「是々非々で」対応する必要があると語っている。

<主導権はロシアに>

西側諸国にとって厄介なのは、国際的な危機が相互に絡み合っている、という点だ。

ロシアはシリアにおいてイスラエルの仇敵であるイランと手を組んでおり、一方ではウクライナの分離独立主義勢力に対するロシア政府の支援がNATOの神経を逆なでしている。

ところがNATO同盟国であるトルコは、ロシア製の対空防衛システムを購入する契約を締結しようとしている。トルコはシリア北部において、ロシアの承認の下、米国の支援を受けたクルド人勢力を攻撃している。

アジアでは米国が北朝鮮による核兵器開発を阻止しようと努力しており、部分的にせよ、欧米が求めている北朝鮮向けの石油禁輸措置に対するロシア政府の支持を必要としているが、これまでのところは拒否されている。

「数年前までは個別の危機について論じることができたが、今日では、どれか1つの問題を論じようとすると、他のすべての危機に波及してしまう」と、ノルウェーのイェンセン外相は言う。

だからこそ、イスラエルのネタニヤフ首相が18日、ミュンヘンでイランを激しく非難する一方で、ニューヨークにおいて英国、米国、フランスが国連の場でイランを批判しようと試みると、ロシアの抵抗に直面してしまう、と外交官らはロイターに語る。

またミュンヘンでは、東ウクライナにおける4年越しの紛争解決に向けて国連平和維持部隊を派遣する動きが勢いを増していると欧米各国当局者は考えているが、米国でウクライナ紛争問題を担当するボルカー特使は、すべてはロシア政府次第だと認めている。

ボルカー特使は米当局者の会合で、「主導権はロシアにある」と語った。この会合には、東ウクライナでの平和維持任務への自国部隊の派遣を申し出ているスウェーデンの国防相も出席していた。

9年前、同じミュンヘンでの会合では、バイデン米副大統領(当時)が対ロ関係の「リセット」を約束したが、西側諸国の関係者は、ソ連崩壊とその後のNATOの東方拡大にロシアがどれだけ深く憤っているかを理解していなかったようである。

外交官らによれば、今日、ロシアによる2014年のクリミア半島併合と東ウクライナの反政府勢力への支援に対して西側諸国が経済制裁を科すなかで、東側・西側の関係は冷戦終結後で最悪のレベルとなっており、改善の展望はほとんどないという。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 中国低迷など
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中