ニュース速報

ワールド

焦点:北朝鮮、平昌五輪で狙う「外交の金メダル」

2018年02月14日(水)16時01分

 2月12日、北朝鮮は、韓国・平昌で開幕した冬季五輪で最も重要なメダルの1つを獲得する有力候補として浮上している。それは、外交の金メダルだ。写真は、アイスホッケー女子の南北合同チームの試合を応援する北朝鮮の応援団。江陵で10日撮影。(2018年 ロイター/Brian Snyder)

Soyoung Kim and James Pearson

[平昌(韓国) 12日 ロイター] - 北朝鮮は、韓国・平昌で開幕した冬季五輪で最も重要なメダルの1つを獲得する有力候補として浮上している。

それは、外交の金メダルだ。

そう評価する韓国の元政府高官や政治専門家らは、北朝鮮が、米国の同盟国である日本と韓国の間に亀裂を生じさせ、制裁で身動きが取れなくなっている自国への圧力緩和に、五輪を利用していると指摘する。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、北朝鮮の五輪参加を表明して世界を驚かせてからわずか1カ月程度しか経ていないが、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は米国との合同軍事演習を延期し、五輪で正恩氏の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏を歓待。また、訪朝して首脳会談を行うことに条件付きで同意している。

「北朝鮮が金メダルを獲得しつつあることは明らかだ」と語るのは、2012─13年に韓国外務省で次官を務めた金聖翰(キム・ソンハン)高麗大国際大学院長だ。

「北朝鮮の代表団や選手団は注目を一身に集め、金正恩氏の妹は韓国国民や世界に向けてエレガントなほほ笑みを見せた。ほんの一瞬でも普通の国家であるかのように振る舞った」

9日の五輪開会式で北朝鮮の代表団と同席したペンス米副大統領は、北朝鮮が核プログラムを放棄しない限り、同国を孤立させる必要性において、米国と韓国、日本の間に夜明けは来ないと語った。

北朝鮮が五輪後にどのような態度に出るかが問題だ、とある米高官は言う。同国はこれまで、ミサイル・核プログラムを放棄する交渉に応じる姿勢を示してはいない。

開会式では、南北合同チームとして一緒に入場行進した両国の選手たちに、文大統領と与正氏が立ち上がって拍手を送る一方で、ペンス米副大統領は着席したままだった。

歴代の米共和党政権に仕えた国際問題専門家ダグラス・パール氏は、「五輪の雰囲気に飲み込まれないようにするのは困難」なため、北朝鮮は宣伝できる有利な状況を利用したとの見方を示した。

だが、国内の保守派や同盟諸国が北朝鮮の核の脅威に黙っているわけがなく、文大統領が融和ムードを維持するのは困難だろう、と同氏は語った。

<日本には悪夢か>

五輪における南北間の融和ムードは米韓のみならず、日韓の関係も悪化させている。日本は、北朝鮮に圧力を強める米国主導の取り組みに同調している。

開会式で時折不愉快そうに見えた日本の安倍晋三首相は、米韓合同軍事演習は五輪後すぐに再開されるべきだと文大統領に伝え、韓国の反感を買った。

北朝鮮が平昌五輪に参加する道を開くため、韓国は毎年2─3月に行われている米国との合同軍事演習を五輪が終わるまで延期した。

韓国大統領府によると、安倍首相は米韓合同軍事演習を延期すべき時ではないと述べ、それに対し文大統領は、これは内政問題であり安倍首相が提起するのは適切ではないと返答したという。

日本はこの軍事演習に参加していないが、同国は北朝鮮のミサイルの射程圏内に位置しており、こうした脅威において米軍とその軍備に大いに依存している。

国際政治が専門である拓殖大学の川上高司教授は、日本にとってこれは悪夢のシナリオだと述べ、北朝鮮は米国、日本、韓国を巧みに仲たがいさせようとしているとの見方を示した。

また、ある日本の防衛省高官は、五輪における北朝鮮のほほ笑み外交は、弾道ミサイル・核開発が完成するまでの「単なる時間稼ぎの手段」である可能性を指摘した。

一方、ペンス副大統領は11日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、北朝鮮との外交的な関与拡大で米韓が合意したと述べた。まず韓国が北朝鮮と対話した後、前提条件なしで米朝対話が行われる可能性があるとした。

「北朝鮮が非核化に向けた有意義な一歩とみなされる行動を取るまで圧力は低下しない」とした上で、「対話を望むのであれば、われわれは応じる」と副大統領は語った。

<制裁の効果>

北朝鮮は現在、厳しい国連の制裁下にある。当初は兵器や核・ミサイル技術の拡散を防止するのが狙いだったが、同国がミサイル発射実験を加速して以降、より包括的な内容となっている。

これまであまり効果が得られなかったものの、こうした制裁がようやく効き始めた可能性を、日本の政府高官や専門家らは指摘する。北朝鮮が五輪への参加を決めた理由もここにあるという。

北朝鮮の首都・平壌に住む外国人はロイターに対し、この数カ月、レストランには以前ほど人がおらず、店に並ぶ高級品も減っていたと語った。

燃料は高騰し、薪(まき)を燃料とする旧ソ連時代のトラックを平壌郊外で見る機会が増えたと、この外国人は話した。かつては北朝鮮の主要な輸出品であった海産物は、昨年8月に国連制裁対象となってからは、国内で広く入手できるようになったという。

五輪へと向かう北朝鮮人を乗せた同国の貨客船「万景峰92号」が韓国に到着後、北朝鮮が韓国に燃料提供を求めていたと、韓国統一省が明らかにした。だが、その要求は韓国が想定していた以上の量であり、北朝鮮はその後、要求を撤回したと、ある韓国当局者は付け加えた。

だが平昌では、両国は制裁について語るのを避けており、五輪の友好ムードに浸っている。その最たるものは、10日夜行われたアイスホッケー女子の南北合同チームの試合だろう。

これに触発された国際オリンピック委員会(IOC)のアンジェラ・ルッジェーロ委員(米国)は11日、北朝鮮選手12人が参加する同合同チームをノーベル平和賞にノミネートするよう呼びかけた。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、23年度は世界販売・生産が過去最高 HV好

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中