ニュース速報

ワールド

アングル:米石油業界の「勝ち組」 CO2活用で生産量アップ

2017年06月07日(水)09時54分

 6月5日、米石油業界では、厄介者の地球温暖化ガスを活用する新技術を駆使して低コストで原油を生産する一握りの「勝ち組」も存在する。ニューメキシコ州ホッブスのオキシデンタル・ペトロリアムで5月3日撮影(2017年 ロイター/Ernest Scheyder)

[ホッブス(米ニューメキシコ州) 5日 ロイター] - 米石油業界では多くの企業が経営破綻に追い込まれ、周辺地域の経済も悪化しているが、厄介者の地球温暖化ガスを活用する新技術を駆使して低コストで原油を生産する一握りの「勝ち組」も存在する。

「二酸化炭素石油増進回収法(CO2・EOR)」と呼ばれるこの手法は、原油採掘や発電の際に発生するCO2を油田に注入して内部の圧力を高め、採掘量を増やす。CO2排出量を減らしながら油田の寿命を延ばし、生産量を高める技術の到来として、世界で歓迎されている。

例えばテキサス州との国境に近いニューメキシコ州ホッブスのオキシデンタル・ペトロリアムはこの技術を導入し、逆境を物ともせずに低コストの原油を生産している。

ホッブス商業会議所の理事会メンバーを務めるジョシュア・グラシャム氏は「石油業界では他の企業が軒並み経営悪化に見舞われているというのに、オキシデンタルは操業を続けている」と話す。

CO2・EORの導入はこれまでのところ従来型油田に限られるが、一部ではシェール油田での活用についても研究が進んでいる。

コンサルタント会社のアドバンスト・リソーシズ・インターナショナルによると、この技術を使った原油生産量は日量約45万バレルで、米国内全体の5%程度。

米エネルギー省によると、EORを使うと当初埋蔵量の30─60%の原油を回収することが可能だ。通常は10%程度にとどまる。

また、オキシデンタルなどはCO2・EORによりCO2の排出量を削減し、税制上の優遇措置を受けている。制度は2008年に始まり、米内国歳入庁によるとこれまでに企業が得た優遇措置は少なくとも合計3億5000万ドルに上る。

米シェール業界は数万人規模で従業員が解雇されているが、ホッブスのオキシデンタルは200人を雇用し続けている。同社は石油業界が苦境に見舞わる中で2億5000万ドルの投資も行ってきた。

ホッブス商業会議所のグラシャム氏は「オキシデンタルのCO2・EORプロジェクト向け投資が地域の景気を大きく押し上げた」と述べた。

EORで地中に注入するCO2の一部は、原油採掘の際に発生したもので、オキシデンタルにとって調達コストは低い。また石油会社が石炭火力発電所からCO2の供給を受けている例もあり、こうした技術に対しては電力会社も期待を寄せている。

米議会はこの夏、税制優遇措置の拡大を審議する見通し。承認されれば、税控除は現在の3倍に膨らむ可能性があり、技術の普及が進みそうだ。

優遇措置の法制化に向けた取り組みは大統領選の期間中に棚上げ状態になっていたが、支持派は近く法案を再提出するとしている。

ハイディ・ハイトキャンプ上院議員(民主党、ノースダコタ州選出)は「われわれの強い決意を示し、こうした技術の発展が続くようにしたい」と述べた。

法制化支持派は、税制上の優遇措置の拡大によって電力会社の間でもCO2の回収や石油会社への販売が増えると期待している。

(Ernest Scheyder記者)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中