ニュース速報

ワールド

アングル:北朝鮮ミサイル発射、米国のアジア防衛網構築の弾みに

2016年02月08日(月)15時45分

 2月8日、北朝鮮が7日事実上の長距離弾道ミサイル打ち上げを強行したことで、米国のアジアでのミサイル防衛構築が加速する可能性があることが米政府高官などの話で分かった。写真は米国防省ミサイル防衛局提供(2016年 ロイター)

[ワシントン 8日 ロイター] - 北朝鮮が7日、事実上の長距離弾道ミサイル打ち上げを強行したことをきっかけに、米国のアジアでのミサイル防衛構築が加速する可能性があることが、米政府高官やミサイル防衛専門家の話で分かった。米軍のアジアプレゼンスが拡大すれば中国との関係が一段と緊迫化しかねない。

先月の核実験に続いてのミサイル発射を受けて、米政府は同盟国の日本と韓国に対して、両国防衛へのコミットメントをあらためて確認。

北朝鮮のミサイル発射から数時間後、米韓は共同声明を発表し、最新鋭の地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の朝鮮半島への配備問題について、公式協議を開始する、と発表した。

韓国はこれまで、最大の貿易相手国である中国を怒らせることを懸念、THAAD配備の可能性を公式に議論することは差し控えていた。

米韓共同声明を受けて、南シナ海での人工島造営をめぐって米国との関係がぎくしゃくしている中国は、さっそく「深刻な懸念の意」を表明。THAADのレーダーが自国領内に及ぶ可能性があることに、警戒感を露わにした。中国外務省の華春瑩報道官は「安全保障を追求する場合には、他国の安全保障上の利益を損なうべきではない」と述べた。

<THAAD配備に追い風>

ある米政府高官は、北朝鮮のミサイル打ち上げを受けて危機感が高まった結果、これまでTHAADに慎重だった韓国政府の一部勢力も折れる可能性があり、韓国にとって大きな転機となるとの見方を示した。

日本では、菅義偉官房長官が8日、記者団に対して、THAADの配備に関する具体的な計画はないと述べた。ただ、新たな軍備の導入は日本の能力増強につながると防衛省は認識している、とも付け加えた。

米ロビー団体「ミサイル防衛擁護同盟(MDAA)」の創設者であるリキ・エリソン氏は、北朝鮮のミサイル打ち上げを受けて、日本のTHAAD配備気運が高まる可能性がある、との見方を示している。

<威力には疑問符、象徴的意味合いか>

ただ専門家からは、北朝鮮が発射したような長距離ミサイルに対して、THAADがどの程度有用なのか疑問視する声もある。短・中距離弾道ミサイルに対する威力はすでに確認されているが、米国防総省も、長距離ミサイルに対する効果はまだ実験していないと認めている。

「憂慮する科学者同盟」のミサイル専門家、デイビッド・ライト氏は、THAADは7日発射されたようなロケットは迎撃できないが、配備すれば韓国国民を安心させる効果がある、と指摘。「ミサイル防衛とは、同盟国とその国民に安心感を与える意味合いが大きい」と語った。

(Andrea Shalal記者、David Brunnstrom記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中