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インタビュー:来年にも日銀は10年金利目標を見直し、物価高持続で=星・東大教授
東京大学大学院経済学研究科の星岳雄教授はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策について、早ければ来年にも10年金利目標を見直す可能性があると述べた。写真は日銀本店前。6月17日撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 6日 ロイター] - 東京大学大学院経済学研究科の星岳雄教授はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策について、早ければ来年にも10年金利目標を見直す可能性があると述べた。インフレ予想の高まりと企業の賃上げで持続的に物価が上昇し、来年度も物価上昇率は2%を超える可能性が高いとみているため。一方、2%の物価目標を達成できない場合でも、世界的に金利が上がる中、「市場の圧力」に屈する形で見直す可能性もあるとした。
<賃金が上昇しやすい環境に>
星氏は、原材料高の価格転嫁が広がる中で、インフレ期待は「すでに十分に上がっている」と指摘。今後はエネルギーの高騰が一服した後も実際のインフレが上がり、賃金上昇につながるかが焦点で、労働市場に生じた構造変化により賃金は上がりやすくなっているとの見方を示した。
星氏が構造変化として挙げるのが、正規と非正規雇用の比率が安定化してきたこと。これまでは正規が減少し、非正規雇用が増える中で平均賃金が上がらなかったが、2016―17年以降は比率が安定化し、「正規・非正規のどちらかが上がれば平均賃金が上がる状態になってきた」とした。正規雇用に過剰感がなくなったため、正規の賃金は持続的に上がる可能性があるとも述べた。
その上で星氏は、物価が今後、日銀の見通しを上回る可能性があると指摘。黒田東彦総裁は資源高などによるコスト押し上げ要因の剥落で23年度の物価見通し(生鮮食品を除く消費者物価指数、コアCPI)が2%を下回るとしているが、星氏はインフレ予想の上昇や労働市場のタイト化を受けた賃金上昇を考慮すると、23年度も2%を超える可能性が高いと予想する。今後日銀は「思った以上にインフレが上がる可能性」も考慮する必要があるとの見方を示した。
ただ、星氏はインフレや賃金の上昇が継続せず、デフレに戻る可能性もあるとする。日銀の政策運営は、物価を巡る上下双方のリスクをにらみつつ「さらに難しくなるだろう」と語った。
利回り曲線全体に上昇圧力が掛かる中、日銀が長短金利操作(イールカーブコントロール=YCC)でコントロールしている10年金利以外の金利はすでに上がっており、曲線はいびつな形状になっている。星氏は、日銀が政策転換に踏み切る場合は10年金利操作目標の扱いが最初の検討対象になるとし、YCC撤廃後は国債や上場投資信託(ETF)などを買い入れる「量」の側面を調整し、最後に伝統的な短期金利の引き上げに至るのが「理想的」だと述べた。
また、日銀が掲げる2%の物価目標の持続的達成が実現しない場合でも、10年金利が「市場の圧力で抑えきれなくなる可能性はある」とした。市場の圧力が主導する形で日銀が早ければ来年にも、YCCの撤廃を余儀なくされる可能性があると語った。
星氏は、政策転換に当たって重要なのは、日本の財政運営への懸念から金利が必要以上に上がらないようにすることだと指摘。長期的な財政規律が成り立っていない中で日銀が政策転換を図ると「国債市場で危機的な動きが起こる可能性が高い」と警戒感を示した。
星氏の専門は金融論、マクロ経済学、日本経済。日銀が11月25日に実施した、日本の賃金形成メカニズムを議論するワークショップではパネリストの1人として登壇した。
*インタビューは5日に実施しました。
(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)