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アングル:欧州で相次ぐ名画襲撃、美術品保険料上昇の可能性も
11月25日、 欧州では美術館が所蔵する名画を標的にした環境活動家による抗議行動が相次ぎ、保険会社は芸術作品襲撃の動きが他のグループにも広がり、美術品の保険料が上がるのではないかと危惧している。写真は15日、ウィーンのレオポルド美術館で、気候活動家に黒い液体を浴びせられたグスタフ・クリムトの作品。提供写真(2022年 ロイター/
[ロンドン 25日 ロイター] - 欧州では美術館が所蔵する名画を標的にした環境活動家による抗議行動が相次ぎ、保険会社は芸術作品襲撃の動きが他のグループにも広がり、美術品の保険料が上がるのではないかと危惧している。
このところ環境活動家が、気候変動問題への関心を集めようと芸術作品を襲う事件が続発。10月にロンドンの美術館、ナショナル・ギャラリーで活動家がゴッホの絵画「ひまわり」にトマトスープを投げつけ、11月にはオーストリアのウィーンにあるレオポルド美術館で化石燃料の使用に反対する活動家がクリムトの絵画「死と生」に黒い液体をかけた。
襲われた絵画は、ガラスかスクリーンで保護されていた。ナショナル・ギャラリーの広報担当者は「ひまわり」の額縁がわずかに損傷を受けただけで済んだと説明。レオポルド美術館は「死と生」に被害はなかったとしているが、それ以上のコメント要請には応じなかった。
しかし、美術界と保険業界の関係者の多くは、美術作品に被害が出るのは時間の問題で、特に作品への襲撃が環境活動を超えて広がった場合、懸念が大きいと指摘している。
米ニューヨークのグッゲンハイム美術館や仏パリのルーブル美術館など100余りの美術館は今月、活動家は「かけがえのない作品の壊れやすさを極めて過小に評価している」とする声明を発表した。
保険会社・ヒスコックスの美術・プライベートクライアント部門責任者、ロバート・リード氏は「今のところ気候変動活動家が中心だが、こうした人々は中流階級のリベラル派で、作品を傷つける意図はあまりない」という。
ただ「心配しているのは、こうした動きが他の抗議団体に広がり、抑制がなく、作品への配慮のない態度を取るようになることだ」と述べた。
ブローカーのホーデンで美術品部門を率いるリフィッポ・ゲリーニ・マラルディ氏によると、作品そのものが直接被害を受けなくても、額縁の修理など後始末にかかる費用は数万ドルに達することがある。リスクプロファイルが変化したため、保険会社から来年の保険料引き上げの打診や、セキュリティーに関する問い合わせがあるかもしれず、美術品の所有者も神経質になりつつあるという。既に美術館に所蔵されるような作品の所有者から保管の依頼が何件か寄せられている。
<上がる保険料>
世界の美術品保険市場の保険料収入は約7億5000万ドル。保険料率は2020年と21年に約5%上がった。今年は横ばいだが、保険会社は上昇を予想する。
気候変動への抗議行動とは関係なく、地球温暖化に関連した火災や洪水の発生が増え、来年の保険料は高くなりそうだという。
インフレも保険料上昇に追い打ちをかけている。
アクサで美術品の引き受け部門を統括するジェニファー・シプフ氏は、保険会社のリスクを保証する再保険会社が来年1月1日の契約更新時に保険料率を引き上げ、美術品市場にも影響が及ぶ可能性があると指摘した。
保険会社やブローカーによると、これまでのところ美術品攻撃による保険金の請求は発生していない。レオポルド美術館の保険契約の詳細は不明だが、ナショナル・ギャラリーの永久収蔵品のリスクは英国政府が負担していると広報担当者が説明した。
主要な美術館は損害が発生した場合、商業的な保険で保険金を請求せず、資金的な保証を政府に依存する場合が多い。
だが、商業ベースで運営する美術館や画廊は美術品保険に加入しており、米国の大規模美術館は欧州よりも保険の利用が一般的だ。
近年はテロや襲撃に対する懸念から、作品がガラス張りになり、警備員や手荷物検査が強化されたこともあって、保険料は安定的に推移していた。
一部の保険会社も警戒を強めており、ある保険会社はガラス張りの作品しか保険を受けないと明かした。
ロイターの取材に応じた保険会社5社は、気候変動による影響をまだ保険料に織り込んでいないと回答した。しかし、既にコスト増に直面しているという作家もいる。
ドイツの芸術家、ANTOINETTEの代理人を務めるトーマス・ハンペル氏によると、ANTOINETTE氏の作品をカバーする保険料の上昇率はこの3年間は3─5%に収まっていたが、来年は12.5%に急上昇する。
また、大きな作品を安全に展示するための追加費用は、輸送や組み立てに加え、100平方メートルの反射防止ガラスの設置など3万5000ユーロ(3万6417ドル)にも達する。ハンペル氏は「こんな追加コストは払えない」と話した。
(Carolyn Cohn記者、Noor Zainab Hussain記者、Barbara Lewis記者)