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アングル:みずほのマイナス金利、海外勢の短期債買い影響 一部で意外感も

2022年08月18日(木)18時36分

8月18日、みずほ銀行へのマイナス金利適用の背景には、日米金利差の急速な拡大により外国人投資家が日本の短期債に投資するメリットが高まったという事情がある。写真はみずほフィナンシャルグループのロゴ。都内で2017年1月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

和田崇彦

[東京 18日 ロイター] - みずほ銀行へのマイナス金利適用の背景には、日米金利差の急速な拡大により外国人投資家が日本の短期債に投資するメリットが高まったという事情がある。同利回りが短期の政策金利マイナス0.1%を下回る結果となり、日銀当座預金に資金を置いておく方が「経済合理性がある」と判断したと、同行は説明している。

一方、金融機関が日々の資金を取引するコール市場の動向をみると、この時期のマイナス金利適用は意外だと話す金融機関関係者もいる。

<米金利急上昇、ドル保有の海外勢に「うまみ」>

日銀が16日に発表した業態別当座預金残高では、7月積み期(7月16日―8月15日)の都市銀行のマイナス金利適用残高は9030億円。みずほ銀によると、ほぼ全額が同行の適用分とみられる。メガバンクへのマイナス金利適用は昨年12月積み期(2021年12月16日―22年1月15日)に三菱UFJ銀行に適用されて以来、半年ぶりとなる。

日銀当座預金は、プラス0.1%が付く「基礎残高」、金利ゼロ%の「マクロ加算残高」、マイナス0.1%の政策金利が付く「政策金利残高」の3つの層で構成されている。基礎残高、マクロ加算残高の上限を超えて資金を積んでおくとマイナス金利が適用される。

みずほ銀はマイナス金利適用に至った理由として「短期国債の利回り低下」を挙げた。

日本相互証券によると、国庫短期証券1年物はマイナス0.144%(最新の約定日は8月3日)、6カ月物はマイナス0.17%(同9日)、3カ月物はマイナス0.13%(同18日)。いずれも政策金利のマイナス0.1%を下回っている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介・債券ストラテジストは「短期債の利回りがマイナス0.1%を下回っているのは海外勢の需要が強いためだ」と指摘する。7月の対外対内証券投資(指定報告機関ベース)によると、海外勢は短期債を6兆0057億円買い越した。

米連邦準備理事会(FRB)の急ピッチの利上げを受けて日米金利差が急拡大し、ドルを保有する海外勢がドルを円に換えて日本の短期債に投資する「うまみ」が高まっている。

外国人投資家の運用手段には、ドルを円に換えて日本の短期国債に投資することのほかに、例えばドルで米短期国債に投資する手段もあるが、どちらに投資するかは米ドル建ての日本の短期国債と米短期国債の利回り格差によるところが大きい。

ドル建ての日本の3カ月物国債利回りは17日時点で3.1%なのに対し、米国の3カ月物国債は2.6%とドル建ての日本の短期債の方が利回りが高い。これは、外国人投資家がドルを一定期間、邦銀などに貸し出す代わりに円を受け取る際にもらえる「ヘッジプレミアム」が拡大しているためだ。鶴田氏によると期間3カ月のプレミアムは、年率換算で3.2%程度だという。

今年は、日銀の金融政策の修正観測で年初から金利に上昇圧力が掛かり、「都銀は10年債や超長期債は含み損のリスクがあるため、敬遠するようになった」(大手証券)という。しかし、都銀が短い年限の国債にシフトすると、海外勢の積極的な買いで金利が想定以上に下がってしまい、短期国債の運用も難しくなっているのが現状だ。

<みずほ、コール市場を「活用」していない可能性>

ただ、市場ではみずほへのマイナス金利の適用を「意外だ」(金融機関関係者)とする向きも少なくない。コール市場では、メガバンクとみられる積極的な資金調達で7月に入ってコールレートに上昇圧力が掛かっていたからだ。

7月、無担保コール翌日物レートがマイナス0.010%を上回る日が相次いだ。日銀の統計によると、7月に都銀等は2兆4318億円の資金の取り手となった。6月の9659億円の2.5倍に上る。

コロナ対応オペの制度縮小で、オペの利用に伴って付加していたマクロ加算残高の追加措置が段階的に剥落するのに伴い、日銀は4月以降、マクロ加算残高の算出に使う基準比率を急速に引き上げた。3月積み期間に6.0%だった基準比率は8月積み期間は33.0%に達した。

マクロ加算残高の上限が急速に引き上がることで、相対的に資金量が多いメガバンクはマイナス金利の適用を受けにくくなり、コール市場で資金を調達して、マクロ加算残高に寝かせておく運用をみずほを含むメガバンクが積極化していると思われていた。

前出の関係者は「当座預金が積み上がり、マイナス金利が適用されそうならコール市場に放出するのも手法として考えられるが、みずほ銀行の運用はそうなっていなかったのか」と話す。

みずほ銀はロイターに対し「マクロ加算残高は上限に達している」と認める一方で、「当行個別の運用戦略については、回答を差し控える」とコメントした。

<みずほ、今後もマイナス金利適用の可能性>

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田氏は、コール市場で資金の受け取り超になっていることやマクロ加算残高の基準比率の引き上げが今後も続くとみられることから、都銀全体としては「マイナス金利適用まで距離がある印象だ」とみている。

みずほ銀は「マネーマーケットの金利動向・見通しを十分に踏まえ、最適なバランスシート運営・ALMを追求するなかで経済合理性に基づき総合的かつ柔軟に判断している」とコメント。「今後も政策金利残高に預け入れる可能性はある」とした。

(和田崇彦 取材協力:山崎牧子 編集 橋本浩)

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