ニュース速報

ビジネス

アングル:中国株へマネー回帰、世界的な逆風からの「避難先」

2022年07月01日(金)15時41分

 6月29日、中国の株式市場に一部外国人投資家が戻りつつある。新型コロナウイルス感染防止のための各種規制が緩和されていることなどが理由だ。写真は中国の株価チャートを表示するディスプレー、上海で2021年9月撮影(2022年 ロイター/Aly Song)

[香港 29日 ロイター] - 中国の株式市場に一部外国人投資家が戻りつつある。新型コロナウイルス感染防止のための各種規制が緩和されていることなどが理由だ。これまで何カ月も活発な売りを浴びてきた株式市場が、持続的な反発基調に移行する可能性が増してきた。

折しも米S&P総合500種は1970年以降で最悪の上半期を終えようとしており、各国の債券市場も苦境に陥っている。そうした中で今、物価高騰や金利上昇、景気後退(リセッション)懸念といった世界的な逆風からの「避難先」となる様相を呈し始めたのが、どうやら中国株のようだ。

実際、主力株で構成されるCSI3000指数は4月の底値から約20%上がった。第1・四半期に10%強下げた上海総合指数も同様の上昇率となっている。

株高の背景には、ロックダウン(都市封鎖)の解除に加え、中国政府が感染対策と企業界の締め付けをともに緩めるシグナルを発信していることがある。これらの事情を動機として、3月に大挙して中国から出て行った外国投資家が再び姿を現した。

英資産運用会社アバディーンのアジア株投資ディレクター、エリザベス・クウィク氏は、様子見していた投資家が過去数週間で中国への投資意欲を幾分高める姿勢を示し、一部はポジションを積み増すことを選んだと述べた。

金融情報会社リフィニティブのデータからは、外国人投資家による6月初めからこれまでの中国上場株買越額が746億元(110億ドル)と、月間ベースで今年最大規模になろうとしていることが分かる。

今週には中国政府が入国者に求める隔離期間をそれまでの半分の1週間に短縮すると、旅行関連株やカジノ株が急伸。投資家の間には、中国政府がいずれ新型コロナウイルスの徹底的な封じ込めを目指す「ゼロコロナ政策」を緩和し、景気支援の約束を果たす努力をしようとするとの期待が広がっている。

モルガン・スタンレーのアナリストチームは29日のリポートで「ゼロコロナは中国の現在の政策の重点を理解しようとする投資家が直面する最大のハードルとされている。足元で起きている出来事は経済成長が優先されているのだと投資家が再び確信を持つことを後押ししている」と述べた。

そして世界のほとんどの地域と異なり、中国はインフレという問題を抱えていない。

新型コロナ関連規制や、大規模な消費刺激策を実施してこなかったおかげで、需要は弱いままに保たれ、物価も抑制されている。つまり引き締めを続けざるを得ない他国の中央銀行をよそに、人民銀行は金融緩和が可能だ。

複数の政府高官は資本市場の支援を表明するとともに、ハイテクなどかつて拡大が過熱したセクターの締め付けも緩めている。

電子商取引最大手アリババの株価は2020年から21年を通じて低迷していたが、今年3月の過去最安値から足元まで60%も上昇。JPモルガンのアナリストチームは24日、顧客に対する中国投資の助言を修正し、これまでのコモディティーや他の市場を通じた間接投資の継続をやめて、直接投資を強化するべきだと説いている。

<運用成績が改善>

中国株の持ち直しを受け、昨年から今年3月までの苦しい時期も投資を続けていたファンドのパフォーマンスも上向いてきた。

広域中華圏投資専門でロング・ショート戦略を採用するヘッジファンドの成績に連動するユーリカヘッジの指数は、今年1─4月に13.6%下落した後、5月は1.1%の上昇となった。

香港に拠点を置き、旗艦ファンドで約19億ドルを運用するアナトール・インベストメント・マネジメントのリターンは1─4月がマイナス22%で、5月はプラスに転じ、6月にプラス幅が拡大した、と事情に詳しい関係者が明かした。

およそ70億ドルを運用するアペックス・マネジメントのリターンも4月と5月がプラスとなったことが、ロイターが確認した書類で判明した。

<資金流入続く>

中国株投資になお慎重な態度を取るべき理由も幾つかある。また、国際金融協会(IIF)のデータに基づくと、6月の外国人による株式買越額の110億ドルは、第1・四半期を通じて株式と債券から流出したおよそ500億ドルと比べれば見劣りすると言える。

投資家は、西側諸国がやがてロシアと同じ方式の経済制裁を中国にも発動するのではないかと懸念している。以前は経済成長をけん引していた不動産市場の状況も、昨年に大手デベロッパーの中国恒大集団によるデフォルト(債務不履行)が発生して以来、ずっと心配の種だ。

ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのユティン・シャオ氏は、同社の中国株の投資判断はまだ「オーバーウエート」に戻っていないと発言。CRUXアセット・マネジメントのファンドマネジャー、エワン・マークソン・ブラウン氏は、中国不動産関連の投資を回避しており、「不動産市場は引き続き大きな問題の1つだ」と話した。

それでも中国株には資金流入が続き、地合いは上向いている。

モーニングスターのデータによると、香港で広域中華圏の株式投資をしているオープンエンド型投信と上場投資信託(ETF)の規模が最も大きい20本は、全て5月のリターンがプラスとなり、このうち17本は運用資産も増えた。

ジャナス・ヘンダーソンのマルチ資産チーム責任者ポール・オコナー氏は、中国株は既にキャピチュレーション(パニック売り)を経ており、現在はアウトパフォームの機会が訪れたと指摘。「バリュエーションはリセットされた。中銀が流動性を吸収し、金利を引き上げている他の地域のような政策面の逆風も存在しない」と強調した。

(Xie Yu記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中