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アングル:米製造業、人手不足と原料価格高騰のダブルパンチ

2021年07月30日(金)18時19分

米サウスカロライナ州の建設機器メーカー、カルダー・ブラザーズは、一部の従業員がライバル社に引き抜かれ、賃上げ圧力にさらされている。写真は同社施設で19日撮影。提供写真(2021年 ロイター/Brandon Granger/Calder Brothers Corporation)

[シカゴ 26日 ロイター] - 米サウスカロライナ州の建設機器メーカー、カルダー・ブラザーズは、一部の従業員がライバル社に引き抜かれ、賃上げ圧力にさらされている。共同オーナーのグレン・カルダー氏によると、他にも離職を考えている従業員が数人いたが、キャリアアップを約束し、なんとか引き留めたという。

米国は全国的に労働力が不足し、企業は必死になって働き手を確保しようとしており、カルダー氏も賃上げを抑えるのは不可能だと分かっている。しかし同社が手掛けるアスファルト舗装機で使われる原材料の価格が高騰しているため、その余裕はない。「経営はかなり厳しい状態だ」と言う。

原材料価格はこの13カ月間絶え間なく上昇、国内のあらゆる規模の製造業者が過去30年間で最も強いインフレ圧力に直面している。

ハーレー・ダビッドソンは先週、原材料高によるコスト上昇圧力を軽減するため、7月1日から国内で販売する一部のモデルに平均2%の価格上乗せを実施したと発表。しかしそれでも下半期の収益は悪化する見通しだ。

コモディティー価格上昇が企業の財務を圧迫しているため、製造業者にとって労働市場の需給が引き締まる中での生き残り競争は一段と困難になっている。

例えば、カルダー・ブラザーズは一部の部品が50%値上がりし、今年の原材料費は全体で15%上昇している。一方、製品の売上は回復したが、新型コロナウイルス流行前の水準は下回ったままだ。

同社は目下、秋に実施する10%の値上げで資金的な余裕を確保し、2-4%の賃上げを行う予定で、それまでは暫定的に従業員の退職金制度への支給を手厚くしている。

カルダー氏によると、同社は拠点を置くグリーンビル郡で給与水準が最も高い部類に入る。初任者の時給は16.80ドル(約1850円)と、州や連邦政府の最低賃金よりはるかに高い。しかしそれでも昨年秋以降、従業員の10%が辞めた。

<労働者の奪い合い>

カルダーは顧客の注文に応じるため人手を増やさなければならないが、実際には労働者の確保にすら手を焼いている。2月から溶接工4人、機械工2人、組立工5人を募集しているが、これまでに採用できたのは3人だけ。

労働市場の逼迫で、カルダーは従業員にワクチンを義務付けることもためらっている。社内のワクチン接種率はわずか35%。感染力の強いデルタ株の急速な拡大で業務が危機にさらされている。カルダー氏は「今の労働市場の状態だと、誰かを刺激するようなことはしたくない」と話す。

米国の製造業者は以前から人手不足を訴えていた。しかしこの4月まで製造業労働者の賃金上昇は経済全体の動きに追いついていなかった。

今年に入ってからは手厚い失業手当、復職への不安、育児問題、コロナ禍に絡む退職や転職などの要因が重なり、国内の労働力供給は制約が強まっている。

労働省のデータによると、製造業の求人数は過去20年間で最も高い水準にある。しかも離職数は少なくとも過去20年間で最大だ。

一方、好景気で競争は激しさを増し、製造業者は、より高い賃金や入社一時金を支給するマクドナルドやアマゾンなどの企業と労働者を奪い合っている。

全米製造業協会(NAM)の調査では、その結果として従業員の賃金は今後12カ月間に過去20年間で最速のペースで上昇する見込みとなった。

カルダー氏は人手の確保について「ソファーから人を引っ張り出すか、他の企業から人を引き抜くかだ。容易なことじゃない」とため息をついた。

<サプライチェーンにも打撃>

他の製造業者も同じような状況に直面している。ロッキード・マーチン向けに部品を製造しているジョージア州のウィンテックは先月、給与の提示額で競り負け、採用を逃した。アリソン・クラチ・ギデンス社長は、競り合った企業はウィンテックの2倍の給与を示したと明かした。

ギデンス氏の話を聞くと、サプライチェーンの目詰まりでコストは上昇しているが、競争力を維持する必要があり、労働者を引き寄せるために支払える額には限度がある。価格上昇圧力が弱まらなければ、労働者を雇用して事業を拡大することができなくなる恐れがあり、「結局のところ受注を抑えるしかない」と言う。

労働力不足は製造業者の生産能力向上の制約になっているだけでなく、供給や物流の流れも妨げている。

ウィンテックは月に2回カリフォルニア州で作業し、その後ジョージア州に戻って最終工程を行うのが仕事の流れだ。従来は全体が5日間で済んでいたが、今ではトラック輸送会社が運転手を見つけられないため2週間もかかる。

カルダー氏も、仕入先が人手不足のため、ワイヤーハーネスが納期通りに入手できていない。仕入先はこの問題に対処するため、生産拠点をサウスカロライナ州からチュニジアに移したという。

カルダー氏は「私も、仕入先も、輸送市場も人手が不足している。問題はそれに尽きる」と話した。

(Rajesh Kumar Singh記者)

ロイター
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