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アングル:繰り上げ償還相次ぐ外貨建てMMF、金利低下で「受難」の構図

2021年05月06日(木)15時50分

 5月6日、国内で販売される外貨建てMMFの顔ぶれに大きな変化が生じている。シドニーで2016年3月撮影(2021年 ロイター/David Gray)

内田慎一

[東京 6日 ロイター] - 国内で販売される外貨建てMMFの顔ぶれに大きな変化が生じている。昨年後半以降、世界的な金利低下の影響で豪ドルやニュージーランドドル建てで繰り上げ償還が相次ぎ、米ドル建ての比率が上昇。その米ドル建ても利回りは低空飛行で魅力が低下し、運用会社の運用難も続く。外貨建てMMFというカテゴリー自体が「受難」の構図に陥りつつある。

<オセアニア通貨の償還で「米ドルのみ販売」の大手証券も>  

外貨建てMMFは格付けや流動性の高い短期金融商品で運用され、毎日実績を分配し、分配金を月末に再投資する仕組み。外貨建ての商品として外貨預金と比較されることが多い。日本証券業協会の集計によると、3月末の残高は1兆7496億円で、公募外国投資信託(債券型)の半分程度を占め続けている。

残高もここ数年は2兆円前後でおおむね安定して推移してきたが、ここにきて通貨別の残高は様相が変わってきた。構成比で米ドル建てと「2強」を形成していた豪ドル建ての繰り上げ償還が発生したほか、NZドル建ての償還も重なり、全体に占める米ドル建ての比率は3月末で84%まで上昇した。昨年8月末に5000億円を超えていた豪ドル建ての残高は2038億円まで減少、一部では新規買い付けを制限している。

その結果、複数の大手証券では外貨建てMMFの取り扱いが米ドルのみの状態になっている。「頼みの綱」ともいえる米ドル建てだが、金利面の運用環境だけみれば豪ドルと大きな隔たりはない。運用対象となる市場の厚みが異なるとはいえ、ある投信業界関係者は「金利水準のみならず、(管理報酬など)手数料も乗ってくる。短期商品に限らず、米ドル型の運用環境は厳しい」と説明する。手数料(費用)の上限は運用資産に対する比率が決まっているが、現状の市場金利では運用会社が費用を捻出するのも容易ではない。

〈比較対象は「現金」の声、絵空事と言えぬ償還リスク〉

市場金利の低下などの要因で、最近提示される米ドル建ての利回り実績は、年0.1%を下回るケースも珍しくない。もともと短期勝負の金融商品ではないにせよ、複利効果でコツコツ増やすにも実感が得にくい低空飛行の水準だ。

投資顧問のアドバイザーで投資ブロガーのたぱぞう氏は、米ドル建ての魅力について「低下した。以前は資金のプール先としてまずまずの利回りだったが、今はもういけない。元本保証でもないので、現金との比較で判断する必要がある」と指摘する。 

ファイナンシャルプランナーの八ツ井慶子氏も、保有目的によっては選択肢になり得るものの、為替の影響や利回りの低下を考慮すると「積極的に資金を増やす商品の候補にも挙がってこない」と話す。

過去を振り返れば、ユーロのような主要通貨でさえ金利低下の影響で消滅した経緯がある。かつて高金利通貨の代名詞でもあった豪ドルにも繰り上げ償還が起きたことで、基軸通貨米ドルの償還リスクも絵空事とは言い切れなくなってきた。外貨建てMMFが償還される場合の背景として、金利水準に加えて、資産残高が不十分と説明されることがある。米ドル建ては残高こそ一定の規模を維持しているが、トランプ前米大統領が在任中、たびたびマイナス金利の導入を要求したように、運用継続が困難にならないという保証はない。

たぱぞう氏は、米ドル建ての償還リスクについて「さすがにないと思う、ないと願いたいが、他通貨が続々償還されたので可能性は以前より高い」とみている。

外貨建てMMFをかき氷に例えれば、売れ筋のシロップ(米ドル)こそ持ちこたえているものの、シロップの選択肢が乏しくなってきて、かき氷の魅力にも影を落としかねない状況と言えるかもしれない。野村証券で販売するMMFが比較的種類を残し、ネット証券では南アランドやトルコリラなど高金利通貨建ても扱う。しかし、新型コロナのパンデミックで金利正常化を見通せない国も多く、運用難が続く「受難」の構図が解消する兆しは現状では見いだしにくい。

前出の八ツ井氏は、金利関連の金融商品全般の運用が困難になりつつあるとした上で「家計のリスクは相対的に大きくなっており、難しい時代に入っている」と指摘する。

(編集:石田仁志)

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