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アングル:NYで直接上場2件同日実施へ、IPO外しの機運高まるか

2020年10月01日(木)07時36分

 9月29日、過去2年間、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)で直接上場を果たした企業は2社にとどまった。写真は2019年1月、ニューヨークで撮影(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

[ニューヨーク 29日 ロイター] - 過去2年間、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)で直接上場を果たした企業は2社にとどまった。しかしデータ解析会社パランティア・テクノロジーズと職場向けソフトウエアメーカー、アサナの2社が、30日に相次いで直接上場に踏み切ろうとしている。

これまでに直接上場を実施したのは、2018年に上場したスウェーデンの音楽配信大手スポティファイ・テクノロジーズと、2019年に上場したビジネス対話アプリの米スラック・テクノロジーズだ。

投資銀行を上場の仲介役から外そうと主張してきた一部の投資家および企業幹部にとって、30日は重大な瞬間となる。IPOは、投資銀行が超有力顧客に大半の株式を割り当てる癒着取引だというのが、これら関係者の長年の主張だ。

米ベンチャーキャピタル会社ニュー・エンタープライズ・アソシエーツの共同経営者、ベン・ナラシン氏は、「パランティアとアサナが成功すれば、当然成功するはずだが、再び直接上場を真剣に検討し始める企業が増えるだろう」と言う。

今年は、コロナ禍で株価が急落した後の相場回復に乗ろうとする企業が増え、IPOが活況を呈している。米国で年初から実施されたIPOの累計は、特別買収目的会社(SPAC)によるものを除いて約500億ドル。これは昨年1年間の総額を既に超えており、通年では2014年以来で最大、2000年以降でも2番目の規模となる勢いだ。

IPOスクープのデータとロイターの計算によると、今年上場した企業の株価は取引初日に平均38%上昇している。これを受け、幹事銀行から株式を割り当ててもらえなかった投資家からの批判が再燃した。また一部の企業は、銀行が初日の「急騰」を演出するため、故意に公開価格を低めに設定しているのでは、との疑念を強めた。

ハイテク企業の「エンジェル投資家」であるフィル・ヘルムス氏はインタビューで、米クラウドデータウェアハウスのスノーフレークが今年実施したIPOで、50万ドル相当の株式を買おうと試みて失敗した経緯を説明している。

同氏はヘッジファンド、シリコンバレーの知人、投信会社フィデリティ、幹事行1行の扉を叩いたが、株式を入手することはできなかった。スノーフレークのIPOは33億6000万ドルと今年最大規模で、株価は初日に倍以上に急騰したが、ヘルムス氏はこれに乗るチャンスを逃し、「私が株式を手に入れられないのなら、一般的な投資家が入手するのは土台無理だ」と憤る。

直接上場はIPOと異なり、株式が前もって投資家に売却されることはない。取引初日の株価は、取引所に寄せられる買い注文によって決まる。

直接上場のデメリットは、新株の発行(資金調達)ができないことだ。現在NYSEとナスダックは米当局に対し、規則を変更して新株発行を認めるよう求めている。

資金を必要としている企業にとってはこの点が障害となり、直接上場への熱はこれまで盛り上りを欠いていた。コロナ禍によって景気が悪化している時には、なおさらだ。

フェンウィック&ウェストで資本市場を専門とする弁護士ラン・ベンツァー氏は、コロナ禍により、「直接上場を考えていた多くの企業が、資金調達の側面からIPOに切り替えた」と説明する。

<ロックアップ合意>

その点、IT企業のパランティアとアサナはコロナ禍の影響を免れている。

パランティアの案件は、直接上場として初めて、来年初めの決算発表後まで投資家が大半の株式を売却できないという「ロックアップ合意」が設けられる。これはIPOでは標準的に行われている慣行で、株価を押し上げる要因になるかもしれない。

ベンツァー氏は「銀行は伝統的なIPOにおけるロックアップ合意の影響についてそろばんをはじき、ロックアップがなければ株式が希少性を失うため、企業は今ほど高い株価で資金調達ができなくなると考えてきた」と説明した。

アサナはロックアップ期間を設けない。関係筋によると、同社が直接上場に魅力を感じたのは、より公正な方法で株価を決定したいという欲求が一因だ。

アサナはコメントを控えた。

(Joshua Franklin記者 Krystal Hu記者 Anirban Sen記者)

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